国語教師のための教材研究室

「国語表現」の実践報告

「国語表現」の実践報告

  (1996年・1997年・1998年の3年間の授業展開)

・年間計画
基本的な考え方
@小論文指導にかたよらない。
A生徒が、常に自分自身に向き合う内容であること。「自分とは何か。」、「自分とはいったいどんな人間なのか。」、「他人と自分の違いはどこか。」という疑問に真面目に答えられるようにすることで、素直な「表現」が生まれる。「国語表現」は、その「表現」を「国語」という枠組みの中でおこなうことである。
B生徒に、自分自身の価値観を持たせること。それは、すなわち人生をどのように生きていこうとするのかという人生観につながるこ とである。
C書かせることを中心に指導をする。
D情報・ネタをできるだけたくさん集めさせて、メモを書かせる。今まで文章が書けなかったのは、ネタがなかったからではないのか振り返らせる。
E必ず、下書きをさせる。自分の書いた文章を、時間をおいてもう一度読むことで、自分の文章の欠点を理解させる。

 1学期
@ガイダンス 1時間
自分自身の考え方を持つことを重点的に話した。
A一行作文 2時間
すぐに長い文章を書かせるのではなく、短い文章からというのが、国語表現の最初の授業として良いようだ。
私は一行作文を用いたが、四字熟語で自己紹介をさせるとか、折り句を作らせるといった試みもおもしろいと思った。
B原稿用紙の使い方 1時間 教科書を利用
C文章の構造 1時間 教科書を利用 とりあえず、文章とは何かを考える意味で取りあげた。
D言語事項等 5時間…まとめてでなく、各項目の間で利用した 京都書房『基礎からの国語表現の実践』を利用 句読点・語句・仮名遣い・送りがな・文字の使い分け
E自分の名前 3時間(メモ作り・下書き・清書)
自分自身を知ろうという試みの第一段。取材をして、メモを作ることの大切さを理解させようとした。下書きをせずにすぐに清書を書きたいと言い出す者がいたが、必ず一度書いて自分の文章を見直すよう指導した。
F中間考査

B原稿用紙の使い方、C文章構造、D言語事項で取り上げたことについて、理解度を確認した。
G物に仮託して意見を述べる 4時間(メモ作り・下書き・清書・ 相互批評) 『自己をひらく表現指導』を利用 自分が何か物になって、その視点で意見を述べるというもの。批評とは何かを考えさせると同時に自分自身を外から(客観的に)見つめるという意味でおこなった。自分理解のための第二段。この作品から、図書館でグループを作って(教師側から指定)、他人の文章を批評・評価させた。相互批評は『自己をひらく表現指導』の採点表を用いて、自分なりにアレンジしておこなった。自分自身の文章の欠点がよくわかったという感想が多かった。
H期末考査

D言語事項で取り上げたことについて理解度を確認したことと、相互批評について感想を書かせた。

二学期

Iガイダンス 1時間
一学期当初におこなったガイダンスでの内容を周知徹底する意味でおこなった。おもに、一学期の成績の説明と、何を評価の中心においているかを話した。
J枠組み指定作文 4時間(メモ作り・下書き・清書・相互批評) 『自己をひらく表現指導』を利用
K言語事項 2時間
故事熟語・敬語
L手紙の書き方 1時間
就職内定者の礼状の指導としての意味も持たせた。
M恋文に断りの返事を書く 3時間(メモ作り・下書き・清書 『自己をひらく表現指導』を利用 ・女子は芥川龍之介の恋文に断りの返事を書く、
・男子は恋文の受取人である塚本文に断りの返事を書こうという試みである。
指導としては、手紙は相手のことを思いやって書かなければならないことを特に強調した。この文章でも、生徒間で相互批評させた。この試みは、生徒の反応が良く、いくつかの質問が出た。
N「意見文を書く」ガイダンス 1時間

O要約をする(他人の意見を理解する) 3時間 旺文社『らくらく小論文』を活用 要約をする作業は意見文を書くのと逆のプロセスにあるということと、他人の意見を理解できなければ自分の意見を客観的に述べることはできないという前提のもとに、文章の要約をさせた。
P社説を要約する 2時間

Q意見文を書く 3時間(要約・下書き・清書 出題は、九十三年度の奈良教育大学の教育学部養護の問題を自分なりにアレンジして生徒に出題してみた。 評価ということに関わって書かせた。筆者の意見を読み取って、その意見に賛成か反対か、自分はどう思うかという流れである。多くの生徒は筆者の意見に賛成であったが、中にははっきりと理由を述べて反対と唱える者もいた。また、これまでの学校の評価に疑問を抱く者や、評価すること自体に反対という者もいた。

3学期

R私の生い立ち 4時間 坂口光司先生の実践(『高校の新しい作文指導』による) これまでの自分自身を振り返ること、これからの自分自身を考えさせること、この二つの目標を持たせて書かせた。枚数は自由としたが、三枚で済ませた者、十二枚書いてきた者などいた。「きちんと書いたら何枚書くことになるかわからない。」という感想を言う者もいた。
S学年末考査

授業に対して良い評価のしてある内容の文章が多く、安心すると同時に、どうやってこのテストを評価の中に組み込むか、逆に考え込んでしまった。


・参考文献

 兵庫県高等学校教育研究会国語部会編集『自己をひらく表現指導』(右文書院)
 三重県国語科研究会会報、第三十五号中の現代文部会の報告の項


・評価について
 「国語表現」という科目の中で一番大きな問題点に評価がある。 いかに客観的であるかという点が一番の問題点ではないかと思う。 また、日々の仕事の中での我々の労力という点もある。書いた生徒作品を一つずつ添削しながら評価をすることの労力は、やはり他の国語の科目以上のものがあるのは確かである。何とか工夫して効率のよいものを作り出していきたい。本年度は、生徒の総合評価を成績の中に加味しようとしたが、客観性という点で問題点があることがわかった。生徒は総合評価が、成績と結びつくと考えてしているわけではないし、かといって成績に結びつくと生徒に言い含めた場合、慎重にはなるが、悪用する生徒が出ないとも限らない。生徒の相互評価は、慎重に活用したい。
 個々の生徒作品の評価には、大きく分けて
  @加点方式と
  A減点方式
の二種類の考え方があると思う。本年度は十点を満点にして減点方式で採点してみた。多くの提出物をこの作品は何パーセント、ファイルは何パーセントと加重を付けて、コンピューター処理した。それぞれの作品の評価は、客観性を増すためにもオープンでないといけないと思ったので、訊ねられた生徒には言うようにした。できるだけ生徒が評価に疑問を抱かないようにである。


・その他の工夫
 ガイダンスの資料中にもあったが、ファイルを作ってまとめるという作業をさせた。このファイル作成はいい。
 ただし、『自己をひらく表現指導』の中には、ファイルを作らせるだけではいかにも「仮の」というイメージがあり、本格的に本を作成するよう指導する方が良いと書かれていた。丁寧に簡易的な製本方法も書かれており、次回にはぜひ利用してみたいと思った。
 このファイル作成は生徒の達成感を満足させるのには良い方法だと思う。年度途中の授業中には「『国語表現』はいやだ。」という感想を持ちながら、この作業を通して十カ月自分がしてきたことを振り返ると、達成感を感じて「いやだ」が「よかった」に変化するらしい。


・考えられること
 本来「表現」とは、書くことだけではないので、書くことから話すことへ、そして、自分の意見をはっきりと理由を述べて主張するという方向で考えてみたい。将来的には、ディベートを視野に入れた指導ができたらと思っている。そのためには、一クラスの人数を今のように、ほぼ四十人のままでは、無理も出てくるかもしれない。これからの課題だと思う。
 中間・期末考査はできればしてみた方がよいと思う。一時間緊張した環境で文章を作成するというのは、良かれ悪しかれ、大切なことだと思う。但し採点のことを考えた問題作成を。

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