かつて、痴呆は知能の不可逆的な障害であると定義されていました。つまり、痴呆は治らないと考えられていたわけです。しかし、一九六五年に痴呆を伴う正常圧水頭症における知能の低下が手術により改善すると報告されてからは、「治療の容易な痴呆」の存在が広く知られるようになりました。何か原因になる病気があって、その病気を治療することによって痴呆が改善する場合、その痴呆を「治療の容易な痴呆」といいます。
ここで、断っておかなければいけないのは、治療が容易であるからといって、すぺての患者さんにおいて痴呆が完全に治るわけではありません。完治はしていないけれども、多少なりとも改善したり、あるいは痴呆の進行が抑えられたという場合が多いわけです。たとえば、薬物中毒による知能低下が完全に治癒する頻度は41%、正常圧水頭症では27%、慢性硬膜下血腫では17%です。また、原因となる病気によっては早期に治療を開始しなければ、不可逆性の痴呆となることもあります。