前頭側頭型痴呆frontotemporal dementia(FTD):FTDの概念がかえって分類上混乱を招いているが、FTDを一疾患としてではなく、症候群としてとらえれば問題はない。
非Alzheimer型変性痴呆non-Alzheimer degenerative dementias(NADD)は,Alzheimer型痴呆[Alzheimer type dementia;ATD(Alzheimer病Alzheimer's disease;AD+Alzheimer型老年痴呆;SDAT)]以外の変性性痴呆疾患の総称である.
この名称は,公的には1996年7月に大阪で開催された第5回Alzheimer病およびその関連疾患に関する国際会議において筆者が企画したワークショップのタイトルとして使用されたのが最初と思われるが,その前日に行われた座談会,さらにその秋の雑誌Dementiaの特集でもこの名称がタイトルとして取りあげられた.また,1997年にオーストラリアのパースで開催された第13回国際神経病理学会でも同じ名称のシンポジウムが組まれ,その特集がBrain Pathologyに掲載された。また,1997年の第16回日本痴呆学会(横浜)でも,これがシンポジウムとして取りあげられた.また,ごく最近筆者らがわが国のNADD研究の最近の進歩についてpsychiatry and Chnical Neuro-sciencesに,さらに筆者らがNADDの展望について精神医学に報告している.
筆者がNADDを特に強調したのには,それなりの理由があった.周知のように,ATDについては1970年代の後半のコリン仮説以来,この20年間に著しい研究の進歩があり,多大な研究の成果があがっている.ところが,ATDより早く記載され,以前にはADとともに二大初老期痴呆症として知られてきたPick病についてはほとんど研究の進展がみられず,また最近の神経病理学や分子生物学の進歩により新しい痴呆疾患が次々に発見され,それぞれの疾患が注目されてきているので,これらの疾患を総称し,ATDと同じように,その研究の進展が計られるべきであると考えたわけである.
■Lewy小体型痴呆dementia with Lewy bodies
Lewy小体型痴呆(DLB)は,l995年の第1回国際ワークショップで提唱された名称である.大脳皮質から脳幹に多数のLewy小体が出現し,痴呆を主症状とする症例は,l976年以降の筆者らの一連の報告により注目され,びまん性Lewy小体病diffuse Lewy body disease(DLBD)として国際的に知られるようになった。
■神経原線維変化型痴呆dementia with neurofibrillary tangles
これは、神経原線維変化neurofibrillary tangle(NFT)が大脳に多数出現することにより痴呆をおこす疾忠の総称である.老人斑はほとんど出現しない点でATDとは異なる。その代表はパーキンソニズム痴呆コンプレックスparkinsonism-dementia complex(PDC)であるが,これはグアム島のチャモロ族に好発し,Hiranoらの研究により注目されたが,最近はグアム島では新たな発病例はほとんどなくなり.過去の病気になりつつある.ただしごく最近、葛原らにより紀伊半島でPDCの剖検例が発見され,紀伊半島ではまだ発病者がおり.この病気は減少していないという指摘がなされた.
■グリアタングル型痴呆dementia with glial tangles
最近,アストログリアやオリゴデンドログリア内に出現する嗜銀性構造物(ここではglial tangleと総称する)が話題になっており,大脳皮質,白質や基底核などに広範にそれらが出現することが,痴呆をおこす可能性がある.そこで,そのような持徴を有する疾患を総称してこう命名した.ここに属する疾患としては,進行性核上性麻痺と皮質基底核変性症、さらに最近注目されている第17番染色体に連鎖する前頭側頭型痴呆パーキンソニズムがある。
■前頭側頭型痴呆frontotemporal dementia(FTD)
FTDは最近提唱された新しい概念であるが、一つの疾患を意味するものではなく,前頭葉と側頭葉に優位な萎縮があり,痴呆をさたす疾患の総称である.もともとLundグループがfrontal lobe degeneration of non-Alzheimer typeという概念を、Manchesterグループがdementia of frontal lobe typeという概念を提唱したが,いずれもあいまいな概念で前頭葉型Pick病との異同なども未解決のままであった.1994年に両グループが共同でFTDという用語を新たに提唱し、その臨床的,神経病理学的特徴を記載した。彼らはFTDを前頭葉変性型frontal lobe degeneration type、Pick型Pick type,運動ニューロン病型motor neuron disease typeの3型に分類した.このFTD概念がかえって混乱を招いているがFTDを一疾患としてではなく、症候群としてとらえれば問題はない。
(横浜市立大学教授・精神医学 小阪憲司)
私もこの分野の痴ほう症の分類はかなり混乱しておりました(NADD、Lewy小体型痴呆、ピック病、FTDの違い等)が、この論文を読んで小阪先生の「FTDを一疾患としてではなく、症候群としてとらえれば問題はない」という意見をお聞きし、随分とすっきりと頭が整理できました。