使って鍛える!
手足に刺激必要!=血管性痴呆でもアルツハイマー型痴呆でも大脳皮質の血流が低下する。寝たきりになると痴呆の進行が早まるが、これは手足の刺激がなくなってしまうからではないか!
痴呆症になりやすい性格、なりにくい性格!
(高野 聡)
使って鍛える
東京都老人総台研究所の安藤進副所長(神経科学)は「若いころから努力して問題に取り組むことが痴呆予防につながる」と語る。
安藤さんらは、生まれたばかりのラットを、遊具を常に与え続けた環境(豊富環境)と、食べることと寝ることしかない環境(標準環境)の二つに分け、「年寄り」に当たる2歳まで育てた。そしてこれら2グループの知能に差があるかどうか迷路を使って調べた。
迷路は、5本の行き止まりの通路と、ゴールにつながる1本の通路を組み合わせた。正解を発見するにはいったんゴールから遠ざかる方向へ走らなければならない。豊富環境で育ったラットはすぐに正しい通路を覚えたが、楳準環境で育ったラツトは何度やってもゴールに近い袋小路に入ってしまい、正しいう回路が覚えられなかった。
「豊富環境で育ったラットは、脳の可塑性のせいで高い知能が維持できていた」と安藤さんは説明する。脳の神経細胞(ニューロン)は体のほかの細胞と違って再生しない。しかし学習によって、機能を回復することができる。この働きが脳の可塑性だ。情報が繰り返し伝えられることで伝達効率が良くなったり、欠けた部分を別の経路で補って情報伝達が可能になる。この時、ニューロンとニユーロンの接合部であるシナプスの数は増えていく。
2群のラットの脳を調べたところ、豊富環境のラットのシナプスの密度は大脳皮質などすべての部位で、標準環境のラットよりも高かった。
「芸術家のように、創作活動に苦労している人は脳に良い刺激を受け続けているために、脳の若さが保たれているのではないか。日常生活の中でも努力して問題を解決することで脳を鍛えることになり、痴呆を防げるかもしれない」と、安藤さんは話す。
手足に刺激必要
脳の老化を調べる過程で、脳の老化防止につながる成果も表れてきている。脳の血行が低下すると、神経細胞は働きにくくなる。従来、脳の血流の調節に自律神経は関与していないと考えられていた。これに疑問を持った佐藤昭夫・昭和大客員教授(自律神経生理学)らはラットを使って実験した。
まず、脳の内側の神経核に注目した。アルツハイマ−病の患者などで失われる部位で、自律神経に似た働きを持つ。ここに電気刺激などを与えたところ、感情や学習など高い次元の神経活動をつかさどる大脳皮質や海馬で血流が増えることを発見した。
ほかに血流を増加させる仕組みを調べたところ、麻酔をかけたラットの手足をピンセットで挟んだり、歩かせた場合でも大脳皮質の血流は増加していた。
共同研究者の堀田晴美同研究所主任研究員は「血管性痴呆でもアルツハイマー型痴呆でも大脳皮質の血流が低下する。寝たきりになると痴呆の進行が早まるが、これは手足の刺激がなくなってしまうからではないか。症状の軽いうちに手足に刺激を与えて脳の血流を増やせば、重症化するのを防げるかもしれない」と期待する。
若いうちに努力を
同研究所は痴呆になった人約200人を対象に、発症前はどのような性格だったかを調べた。その結果、頑固、わがまま、非協調的、非社交的などの性格が多かった。痴呆にならなかった人約3O0人の調査では明るい、開放的、正義感が強いなどの性格が多かった。
安藤さんは「積極的な性格が脳の活動を高めるように働いて、痴呆の発症を遅らせるのかもしれない。将来は薬の開発も期待できるが、脳の状態をあらかじめ高く維持していれば、高齢になって機能が低下しても、痴呆状態にならないで寿命をまっとうできる。薬に頼るより本人が若いうちから努力することが最も必要だ」と話している。
「血管性痴呆でもアルツハイマー型痴呆でも大脳皮質の血流が低下する。寝たきりになると痴呆の進行が早まるが、これは手足の刺激がなくなってしまうからではないか。症状の軽いうちに手足に刺激を与えて脳の血流を増やせば、重症化するのを防げるかもしれない」の部分は、新しい提唱ですね。施設入所を契機として急に痴ほう症が悪化するケースはこのような機序がはたらいているのかもしれませんね。