痴ほう

 世話の焼きすぎ 禁物!

 欧米では高齢者の子供との同居率が七%程度!

 書評:スウェーデン人はいま幸せか(訓覇法子著)


 H子さん(90)は七年前から痴ほうが始まり、迷子になったり、食べたことを忘れるようになった。夜中に起きて、引っ越しすると言って荷物をまとめたり、死んだ妹と話をしたと言って家族を戸惑わせたりする。往診したところ、本人は三階のベッドで寝たきり寸前の状態だった。

 家族には、クリニックの老人デイナイトケアと呼ばれる通いの施設に行くよう勧めた。本人は難聴があり、腰が九○度に曲がって手押し車で歩行する状態だったので車で送迎した。間もなく元気になり、痴ほうも目に見えて軽減した。友人がいて、助け合ったことも良かったようた。

 ところがある日、H子さんは風邪をひいて入院した。わずか五日間安静にしただけだったが、もう家族の顔が分からなくなり、痴ほうが戻ってしまった。退院後、施設通いを再開すると、徐々に回復して元の元気な状態に戻った。

 日本では高齢者の具合が悪くなると、すぐに「休んでください」と言って寝かせようとする。そして、家族が何から何まで面倒をみる。本人も家族も、これが一番のやさしさだと信じている。老後は子供が面倒をみるという、やさしい日本の文化が寝たきり老人をつくる最大の要因である。

 欧米では高齢者の子供との同居率が七%程度と低く高齢者が寝たきりになっても面倒をみる人が周囲にいないことが多い。高齢者本人が寝たきりにならないよう必死に努力する。その自立心は強い。

 高齢者は、一日中いすやソファに腰掛けて過ごすか、できるだけ外出して社会に接し、孤立しないように本人も努力し、周囲も支援する。高齢者に最も求められるものは生きる目標を持ち続け、希望にあふれ、好奇心をもって、外に向かって活動することである。

 一九五○年代のスウェーデンでは高齢化率はまだ10%ほどだったが、高齢者を社会から隔離して、雑居部屋の老人ホームに入れた。その後、高齢者は隔離すべきではないという論争が起こり、自宅に介護者が出向く在宅福祉のメニュー(二十四時間ケア、グループホームなど)が整備された。寝たきり老人は現在ほとんどいないという。

 スウェーデンより三十年遅れている日本では新ゴールドプラン(高齢者保健福祉推進十カ年戦略)が九四年末に策定されたが、老人保健施設、特別養護老人ホーム、介護療養型医療施設などの建築・整備に重点が置かれ、なお入所・入院を通じた介護政策の性格が強い。二十一世紀に向けて、施設入所より、街の中でのトータルなサポートシステムのもとで、高齢者のノーマライゼーション(普通の人と同じように受け入れる考え方)が達成されることを願ってやまない。

(榎木クリニック院長 榎本 稔) 

(参考文献:平成11年4月5日 日本経済新聞・ココロジー)

 

私の感想

 「わずか5日の安静で痴ほうが悪化」する機序については、以前もこのホームページで毎日新聞記事を紹介して説明いたしました。

 榎本先生は、スウェーデンの福祉政策を見習うべきだと記述されておりますが、「スウェーデン人はいま幸せか(訓覇法子著)NHKブックス」という本のP194〜198、P208〜209には、スウェーデンの現状が記載されており、失業者・早期退職年金受給者など社会の底辺に完全に疎外されたグループが存在することが記載されており、福祉国家スウェーデンは今ゆきづまり大きく揺れており、経済打開のため失業保険給付も95%から90%に引き下げられた状況が報告されております。

 福祉の充実と経済の再生のハーモニーは大変難しい課題です。

 

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