ストレスを長く受けた人は、記憶力減退を示すことがしぱしば指摘されている。ぺトナム戦争の退役軍人で心的外傷後ストレス経験者は,記憶中枢とされる海馬が8〜26%萎縮していることが報告されている。うつ状態の人々では,海馬の12〜l6%の縮小とともに血中グルココルチコイドレペルの上昇が認められている。激しいスポーツも血中コルチコイドレベルを上げ、記憶力に悪影響を及ぽすともいわれている。本稿では,ストレスや加齢によるニューロンの障害とグルココルチコイドの関与について若干の考察をしてみたい。
脳老化および痴呆とグルココルチコイド
グルココルチコイドは生体反応において双刃の剣を演じる。急性ストレスに対抗するべく、グルココルチコイドは循環系を賦活し、エネルギー産生を高め、不要な合成系は抑える。一方、過剰なグルココルチコイドは、ステロイド性糖尿・高血圧・骨粗鬆症・免疫不全などをもたらす。老化の原因の一つにストレスを想定する考えによれぱ、グルココルチコイドがその責任分子と目される。
Alzheimer病と中枢神経系のグルココルチコイド濃度
臨床症状と神経病理学的に明確に診断された患者の死後脳の脳室液(CSF)についてコーチゾール濃度が測定された。その結果は測定された全Alzheimer病患者の平均値は、正常対照群より83%高かった。
Alzheimer病患者を65歳以下(presenile)と65歳以上(senile)に分けてそれぞれの対照群と比較すると、いくつかの待徴がみえてくる。初老期Alzheimer病患者のコーチゾールは対照群の5倍も高い値となっているが、老年期患者では対照群よりも高い傾向はあるものの、有意の差とはなっていない。その理由として、対照群の加齢変化によって老齢群では65歳以下の群の3.5倍の高値になることと、Alzheimer病患者では発症の時期にかかわらず同じ程度のコーチゾール値を示すことと、さらに患者では病気の進行とともに上昇する傾向がみられないことなどが考えられる。
グルココルチコイドによる細胞障害のメカニズム
グルココルチコイドによって、海馬領域でグルタミン酸の放出が高まるとの知見が報告されている。海馬において慢性的にグルタミン酸放出が亢進してニューロンの過興奮状態がもたらされることが考えられる。
(東京都老人総合研究所副所長・安藤 進)
それにしてもストレスで海馬が萎縮するというのは恐いことですね。