認知症
各種疾患のアンチエイジング療法
栄養
地域住民を対象とした前向き研究のほとんどが,魚やω-3系不飽和脂肪酸の摂取が多いと,認知機能の低下やADのリスクが低下することを示している3)。現在ω-3系不飽和脂肪酸の認知機能の低下やAD予防効果について無作為対照比較試験がいくつか進行中であり,その結果が待たれる。地中海領域では,野菜,魚,果物,穀物などを多く用い,オリーブオイルで調理する。また食事とともにワインを摂る。この地中海の食事は,血管障害に対する予防効果が知られていたが,ADのリスクを低下することも報告された4)。一方高脂肪食,とくに飽和脂肪酸の多い食事や,高カロリー食はADのリスクを高めることが報告されている。
ADに対するサプリメントとしてイチョウ葉エキスが注目されている。成分であるフラボノイドとギンコライドは抗酸化作用や血液循環改善作用を認め,幾つかのプラセボ比較対照試験でも,認知機能や感情面に対する効果が示唆されている。ただし最近報告された72〜96歳の認知機能が正常あるいはMCIの住民3,069名に対する平均6.1年にわたる無作為比較対照試験では,認知機能への効果は認められなかった5)。
運動
認知機能に対する運動の効果についてはコホート研究や介入研究をはじめいくつもの研究があり,運動をしている人はしない人よりも認知機能が良好に保たれ,認知症発症のリスクが低下するとした報告が多い7)。またMCIを含む高齢者を対象とした無作為比較対照試験では,1週間に150分以上の運動(1回50分のウオーキングを3回以上)を24週間継続した群は,Alzheimer
Disease Assessment Scale-Cognitive Subscale(ADAS-Cog)のスコア,遅延再生の結果,ならびにClinical
Dementia Rating(CDR)の結果が,非介入群と比較して有意に優れていた。この認知機能に対する効果は介入終了後12カ月後にも認められた8)。
知的活動
知的活動が認知機能を維持し,認知症の発症リスクを下げることが報告されている。65歳以上のカトリック教会の聖職者801名を対象とした平均4.5年のコホート研究では,テレビをみたりラジオを聴いたり,新聞,雑誌,本を読んだり,ゲームを楽しんだり,美術館に行ったりなどの知的活動の頻度が増加するにつれADのリスクが減少した。作動記憶や知覚速度の改善を認めたという9)。また75歳以上の469名の地域住民を5.1年追跡した研究においても,知的活動量が多いほど認知症のリスクは低下した。この研究では,認知症のリスクが,ボードゲームで0.26倍,読書や新聞を読む0.65倍,楽器演奏0.31倍,クロスワードパズル0.59倍となった10)。
睡眠
睡眠は記憶の固定に重要な役割を果たしている。一方睡眠障害は日中の眠気を誘発し,記憶や注意機能などの認知機能を低下させ,反応時間が遅延するなど,日中の活動にさまざまな支障を来す。したがって,良好な睡眠状態は,精神,身体面の健康面のみならず,認知機能面からも重要である。
短時間の午睡が,認知症発症に対して予防効果をもつ可能性が示されている11)。この報告によれば,1日30分以内の午睡の習慣のある人は,無い人に比べてADの発症が5分の一程度であったという。一方午睡時間が長くなればなるほど認知症の発症率が高くなることも報告されている。機序の解明は今後の課題だが,日中の短時間の午睡によるストレスの軽減やリフレッシュ効果が神経細胞に対して保護的に作用した可能性が考えられる。
身体治療薬の認知機能への効果
生活習慣病に対する治療薬剤の中には,薬剤自身に認知機能の低下や認知症のリスクを低下させる可能性があるものが報告されている。
降圧剤のニトレンジピン(カルシウム阻害剤)がADの発症を有意に低下したこと13),カンデサルタン(アンジオテンシンU受容体阻害剤)が,MCIレベルの患者に対して認知機能低下を抑制したこと14)などが報告されている。スタテンは,コレステロール低下作用以外にも,抗炎症作用,抗酸化作用,あるいはアミロイド前駆体蛋白の代謝調節作用などを認め,横断研究ではスタチン服用者にADの罹患率が低かった。ただしコホート
研究ではADの発症抑制効果は明らかではない。無作為対照試験の結果から,AD患者の進行抑制効果の可能性が報告されている15)。漢方医学では加齢に伴い身体諸機能が低下し,健忘,めまい,耳鳴り,難聴,腰痛,下肢の脱力感,冷え,しびれ,排尿の異常などがみられる状態を腎虚という。腎虚に対する,すなわちアンチエイジングの代表的な漢方薬が八味地黄丸である。また基礎研究から,釣藤散,黄連解毒湯,当帰芍薬散をはじめ多くの漢方薬に抗酸化作用が認められている。ただし認知症の予防効果についての報告はない。
文献
11)Asada,T.:Associations between retrospectively
recalled napping behavior and later development
of Alzheimer`s disease:association with
APOE genotypes.Sleep,23:629-634,2000
(筑波大学大学院人間総合科学研究科精神病態医学 水上勝義)
【臨床と研究・87巻4号(平成22年4月 p470-472)】
私の感想
良い論文ですね。最新情報がよくまとめられています。
『現在ω-3系不飽和脂肪酸の認知機能の低下やAD予防効果について無作為対照比較試験がいくつか進行中』、『一方午睡時間が長くなればなるほど認知症の発症率が高くなることも報告されている』、『降圧剤のニトレンジピンがADの発症を有意に低下したこと,カンデサルタンが,MCIレベルの患者に対して認知機能低下を抑制した』、『漢方医学では加齢に伴い身体諸機能が低下し,健忘,めまい,耳鳴り,難聴,腰痛,下肢の脱力感,冷え,しびれ,排尿の異常などがみられる状態を腎虚という。腎虚に対する,すなわちアンチエイジングの代表的な漢方薬が八味地黄丸である』などが特に興味深い記載でした。