原因次第で、治るものも!
妻(70)の相談で来院したタダシさん(75)は、「痴呆って治りますか」と私に尋ねた。妻は腰痛で入院してから、もの忘れがひどくなり夜も落ちつかない。
痴呆というのは症状の名前で、病気の名前ではない。いろいろな病気で発熱という症状がでるように、様々な病気で痴呆という症状がでる。だから治せるかどうかは、原因となった病気次第だ。私は、とにかく原因をはっきりさせましょうと答えた。
痴呆は脳に影響するあらゆる病気で起きるから、病気がちとなる高齢者はど多くなる。70代で約5%、80代で約20%だ。逆にいえば多数の人はならないわけで、「年をとれば皆ボケる」と考えるのは間違っている。
さらに「もの忘れがあれば痴呆」と考えるのも間違いだ。しまった場所や人の名前がふいに思い出せなくても、その自覚があれば通常は心配ない。問題なのは、さっき話したことや自分でしたこと自体を覚えていない場合で、こういうときは受診して、原因をはっきりさせた方が良い。
さて、予防できる痴呆には脳血管性痴呆がある。動脈硬化が進んで、脳の血流が落ちるのが原因だ。身体の反応も鈍くなる。動脈硬化の原因になる高血圧や糖尿病、高脂血症などに気をつければ、予防ができる。
治せる痴呆には、栄養障害やホルモン異常による痴呆、頭を強打した後の痴呆などがある。
痴呆のように見える意識の低下も通常は治療が可能だ。脱水や発熱、引っ越しや入院といった生活環境の変化などをきっかけにして意識が曇る。
タダシさんの妻は落ち着きのなさが目立つ「せん妄」という意識の障害で、薬が効いて治っていった。せん妄は入院した高齢者の15〜30%に起こるといわれている。
治せないが、進行を遅らせることができる痴呆もある。アルツハイマー病など、だんだんに脳がしなびていく病気で、委縮する脳の場所に応じて、記憶や理解といった目に見えない高等な機能の麻痺が起きる。
足の麻痺をみて、歩けないのを責める人はいない。だが目に見えない能力の麻痺は、周囲にとんでもない誤解を生むことがある。記憶の麻痺が否認と責められ、理解の麻痺が自分勝手と責められる。そんな誤解が重なって、痴呆を生きる人と介護をする人との関係が壊れていく。痴呆ケアの難しさは、こうした人間関係の難しさにもある。
(こころ元気ですか 高齢者編2 山崎英樹先生)
私の感想
せん妄を起こす%(15〜30%)が紹介されており、興味深い記事でした。
以下に、私が現在「せん妄」のメール相談に対して返信している定型文をご紹介致します。
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メール拝見いたしました。 「急性アルツハイマー病」(アルツハイマー病は痴ほう症の最も代表的なものです)という病気はありませんので、急速に痴呆症が出現した場合には、せん妄の可能性を考えてください。 以下、「せん妄」に関して私の著書より抜粋して紹介いたします。 |
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質問:せん妄って何?対処方法は? 祖父が祖母の死亡をきっかけに急速に痴呆症状が進み、神経科を受診したところ、「せん妄」と診断されましたが、どんな病気なのですか。これからどんどん悪化していくのでしょうか?対処方法はありますか? 回答:よく「痴呆症が治った」という話を聞くことがあると思いますが、その場合は痴呆症ではなく「せん妄」であったと考えて下さい。 せん妄とは熱発による脱水、肺炎などの感染症、薬によるもの、心不全・骨折・配偶者の死などの急速な環境変化により、急速に混乱した状態に陥るものです。不安なども随伴することが多いので、身近な方が付き添い安心感を与えてやる必要があります。 医療関係者以外の方には、せん妄と痴呆症の区別は付きにくいものです。痴呆症と同様、妄想もしばしば認められます。しかし急速に起こったかどうかということでどちらなのかは判断できます。 但し痴呆症患者さんでせん妄が加わることも当然あります。アルツハイマー病患者さんが、入所・同居などで、急速に環境が変化した場合など、一時的に痴呆症状が悪化することがあります。このような場合「痴呆が進行した」と片付けられてしまうことが多いように思うのですが、これは痴呆症にせん妄が加わった状態なのです。通常、せん妄はその原因が解消されれば1〜2週間で改善します。 せん妄の原因に薬によるものがあることを述べましたが、その代表的な薬剤を列挙いたしましょう。 1 パーキンソン病の薬 2 睡眠剤 3 精神安定剤 4 うつ病の薬 5 てんかんの薬 6 脳代謝賦活薬(脳の機能を改善させる薬が逆に脳機能を低下させることがあり得るわけです) 7 胃潰瘍の薬(H2 受容体拮抗薬) 8 血圧の薬(αメチルドパなど) 9 制吐薬(メトクロプラミド)
対応に関してはこれという決め手はないのですが、上記の文章にも書かれている以下の点にご留意下さい。 アルツハイマー病患者さんが、入所・同居などで、急速に環境が変化した場合など、一時的に痴呆症状が悪化することがありますので、可能であるならば環境を徐々に変える。すなわち施設入所などの場合、いきなり入所するのではなく、見学などを繰り返し本人が慣れたころを見計らって入所を考えることが必要になります。 しかし入院など急なことでは慣れるのを待っておれないようなことも多々あります。この場合は、上記の文章中にも書いてありますが、新しい環境で不安なども随伴することが多いので、「身近な方が付き添い安心感を与えてやる」というのが具体的な対処方法となります。
風邪などが原因で体調不良となると、この「せん妄」が出現することがあります。せん妄であれば、治ることがありますので、「神経内科」を受診すると良いと思います。 ただし、「せん妄」と思っていたら、アルツハイマー病の初期であったということもあります。
その他の参考サイト http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/Delirium0204Hodanren.shtml |