もの忘れ検診の現状
検診前のインフォームド・コンセントが重要
私はかつて、脳ドック・認知症検診の受診予約者に、受診前に脳ドック・認知症検診に関する詳細(意義・検診の限界など)を記載した文書を郵送し、どの程度の受診キャンセル率があるかを調査したことがあります。
その結果、文書郵送後、脳ドックで22・2%、認知症検診では46・6%ものキャンセルがありました(平成11年8月29日付読売新聞「いきいき健考人」)。こうした数字を考えると、検診受診前に、検診に関する詳細を情報提供する姿勢が医療機関に求められているのだと私は考えています。
ご存じのように、認知症の増加は、大きな社会問題となっております。認知症の発症率は、少なく見積もっても65歳以上で1%、75歳以上で10%、85歳以上で25%程度とされています。このような状況のため、物忘れ外来、認知症検診(もの忘れ検診)に期待が寄せられているのですが、脳ドックと違いガイドラインが未整備のため、施設間で随分と、認知症検診の質に差があるように感じています。
認知症検診は、平成8年7月に私が全国で初めて立ち上げた検診です(平成9年5月19日付読売新聞「こちら医療情報室」)。
認知症検診の創設者としては、認知症検診を良い方向に牽引してこられなかったことを残念に感じております。率直に言えば、現在施行されている認知症検診には、多くの問題点があると思います。
1 認知症検診担当医の質は担保されているのか?
2 検診項目は妥当か?
3 PET検査まで実施するのならば、事前のインフォームド・コンセントが必要では!
ざっと考えただけでも、以上のような問題点が思い浮かびます。
順次、私が感じる問題点を詳しく解説します。担当医の質に関しては、特殊な検診だけにその専門性がより一層求められます。日本認知症学会では、平成20年度より専門医制度が始まり、私も平成21年度に、専門医(&指導医)の一人として認定されましたが、現時点での日本認知症学会専門医数は、全国でわずか156名という状況です(三重県内では4名)。
榊原白鳳病院では、平成22年3月末より「もの忘れ検診」の予約受付を開始しており、4月6日に1例目を実施しました。当院の「もの忘れ検診」では、通常は、二次検査として施行される詳細な神経心理学的検査(=リバーミード行動記憶検査)を検診の中に組み入れています。榊原白鳳病院には、現在4名のST(言語聴覚士)および5名のOT(作業療法士)が在籍しており、多数のリバーミード行動記憶検査を迅速に実施できる態勢が整っています。
認知症検診(もの忘れ検診、もの忘れドック)で検索すると、多くの医療機関が検索されます。残念なことに、画像診断が検診の中心になっており、神経心理学的検査としては、改訂長谷川式簡易知能評価スケールなどの簡易な神経心理学的検査のみというお粗末な医療機関が多いようです。
改訂長谷川式簡易知能評価スケールだけでは、ごく早期のアルツハイマー病の診断は困難であるというのが認知症専門医の共通認識です。リバーミード行動記憶検査を「もの忘れ検診」に組み入れて、しかも即日、結果まで説明しているもの忘れ検診は、非常に稀だと思います。榊原白鳳病院のもの忘れ検診は、MRI検査(磁気共鳴映像)費用を含めても2万円(消費税別)という破格の価格で実施しており、尚かつ、診察後に必要があれば、MSW(医療ソーシャルワーカー)による介護サービスの情報提供・指導も行っております。榊原白鳳病院のもの忘れ検診の予約先は、TEL059−252−2300。
アルツハイマー病の早期診断に関しては、専門家の間では、PET検査(陽電子放出断層撮影=脳などの代謝機能を調べることができます)による超早期診断に強い関心が寄せられています。しかし、PET機器は非常に高額なため、装備していない医療機関がほとんどです(榊原白鳳病院も設置していません)。しかし、PET検査の診断率が群を抜いて高いのか?と聞かれれば、実はそうではない状況です。そのうえ、「偽陽性」(本当は異常がないのに、異常有りという判定結果が出ること)という大きな問題を抱えております。
アルツハイマー病は、アミロイドβが脳内に蓄積することが、発症原因の大部分を占めると考えられています。PET検査を用いると、そのアミロイドβを検出することが可能ですので、早期(発症前も含めて)のアルツハイマー病診断に有用です。しかし最近の研究結果によれば、PET検査を用いても、超早期アルツハイマー病におけるアミロイド蓄積率は、15例中9例(60%)にとどまっていました。また、健常者の10〜15%にPET検査で偽陽性があったことが指摘されています(このデータは、この分野の第一人者である東京都老人総合研究所・石井賢二先生が、平成20年のアルツハイマー病研究会において報告したデータです)。
PET検査のような最先端検査に於いては、データの「積み重ね」は大切です(研究医療機関においては!)。しかし、一般の医療機関で商業ベースで実施する場合には、検査(検診)に関する事前のインフォームド・コンセントに最大限の注意を払う必要があります。
もし事前に「偽陽性」の問題点がしっかりと説明されずに、PETも含めた認知症検診を受診した場合、PET認知症検診受診後に、健常者の10〜15%が、「私は将来アルツハイマー病になるのでは・・」という不安を抱えながら生活していくという不利益を被ることになるわけです。アルツハイマー病患者さんが、自分の未来に希望を抱けず、「安楽死」を選択したことも報道されています(平成20年5月24日付朝日新聞)。超早期のアルツハイマー病患者さんが、数年後の自分の運命を知ることは、任意後見制度の活用という面においてはメリットがあります。しかし一方では、根治療法が確立されていない疾患であり、なおかつ進行すると家族の顔さえも分からなくなるという病気であるため、非常に辛い病名告知となりますので、PET認知症検診前には事前のインフォームド・コンセントが不可欠だと思います。
検診の利益は、ネット上で数多く検索されますが、不利益に関して言及しているサイトは稀です。しかし、そこに踏み込んで情報を提供する姿勢が、医療機関には求められているのだと私は思っています。次回は、「がん検診」についてお話します。