MCIに対する薬物療法

 

 アリセプトはMCIにも有効!


 現在のところ、わが国で市販されているアルツハイマー病(AD)治療薬は、塩酸ドネペジル(アリセプト)のみである。塩酸ドネペジルは単に認知機能の改善だけではなく、QOLの改善をもたらし、多くの恩恵を与えている1)。近年はADの前段階としてmild cognitive impairment(軽度認知障害、MCI)が注目され、欧米ではアセチルコリンエステラーゼ阻害薬を中心にMCIに対する臨床試験が行われている。今回はMCIおよびADについて塩酸ドネペジルの臨床効果を紹介し、今後の展望について述べる。

 

MCIに対する効果

 ADの前段階としてMCIという概念が提唱されている。Petersenらが提唱したMCIの定義は、(1)自覚的な物忘れの訴えがある、(2)客観的な記憶障害を認める、(3)記憶障害以外の高次機能障害がない、(4)日常生活動作は保たれている、(5)痴呆の診断基準を満たさないというものである。この定義にはいろいろ批判も多く、概念について現在のところ一致した見解が得られていないが、少なくとも正常とADの間に移行期のような状態が存在するのは確かで、痴呆症の前段階あるいはきわめて早期のADを捉えられている可能性がある。

 わが国ではMCIに対する塩酸ドネペジルの適応はないが、自験例で「物忘れが改善した」あるいは「頭がスッキリした」という自覚が得られ、長谷川式簡易知的機能検査-改訂版(HDS-R)あるいはmini-mental state examination(MMSE)などのスコアの改善もみられた症例を経験した。

 欧米では塩酸ドネペジルをはじめ、各種薬剤のMCIに対する臨味試験が行われている。米国でのMCI患者二七〇例を対象とした多施設共同二重盲検プラセボ対照比較試験では、プラセボ投与群に比し塩酸ドネペジル投与群で二四週後のADAS-Cogスコアが有意に改善することが示された。また、患者の全般評価においても悪化例はプラセボ群に多く、ドネペジル投与群では改善例が多いという結果が得られている2)。このことからADと同様にMCIでも塩酸ドネペジルは有効であれり、早期治療の有効性が示された。

 

very early ADに対する効果

 槻念の問題であるが、現在MCIと呼んでいる例はすでにADであリ、very early ADというべきであるという考えもある。very early ADを対象とした多施設臨床試験が最近米国でなされ、大変興味ある結果が得られた。

 一五三例のvery early ADを対象として、塩酸ドネペジル10mg/日で二四週間投与するrandomized,double-blind,placebo-controlled studyが施行された。対象の選定基準としては、CDR(clinical dementia rating)〇・五〜一・〇で、MMSEは二一〜二六点とし、有効性の評価はmodified ADAS cogとMMSEを用いている。その結果、modified ADAS cogのtotal score,MMSEともに塩酸ドネペジル投与群でプラセボ群と比較して有意な改善がみられた。最も興味深いのは、modified ADAS cogのcognitive performanceにおいて、特にvery early AD群で最もよい改善効果を示したことである。また、MMSEでも同様の結果を示した。前述のMCIのデータと同様に、塩酸ドネペジルをADのより早期から投与する意義が証明されたものと考えられる。

 

今後の展望

(中略)

 

【文献】

1)浦上克哉:内科専門医会誌14:424,2002

2)Salloway SP:Neurology 60:A411,2003

(日本医事新報No.4175 平成16年5月1日号 P89 浦上克哉)

 

私の感想

 素晴らしいデータが報告されました。

 昨日(=2004.5.1)の外来で、MCIの患者さんのご家族から、「進行を遅らせる方法はないのですか?」と質問を受けましたが、『長谷川式簡易知的機能検査-改訂版(HDS-R)のスコアが、1年半前:23点、1年前:19点、半年前:22点、5月1日:22点と決して進行はしていないので、進行阻止のためのワクチン療法が来年より臨床試験に入る予定ですが、「進行」が確認されていないので、治験の段階でのワクチン開始は検討しなくても良いのではないか』とお返事いたしました。

 ADに移行するMCIなのか移行しないMCIなのかを判断する手段(=very early AD確実な診断マーカー)が開発されないと、ワクチン療法を開始するのかどうかの最終決定因子がないと言うことになりますし、ワクチン療法の効果・臨床試験の結果の判断において非常に大きな問題点が生じることになります(=ワクチンを使用したから進行がストップしたのか、打たなくても元々進行しないMCIだったのかの個別判定ができない)。

 しかしながら、ワクチンの副作用が極めて乏しければ、「心配なので念のためにMCIの段階でワクチンを打っておく」という考え方が一般には受け入れられそうに思います。

 

MCI:過去の主なバックナンバー

(1)人口に基づいたmild cognitive impaimentの頻度および予後についてのprospectiveな研究

 MCIの40%以上が正常に戻った

(2)軽症認知障害

 MCIから脳血管性痴呆への進展

(3)CDR0.5で「痴呆疑い群」の早期発見を

 MCI基準では見逃し多い

   

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