71歳以上の高齢者の22%が軽度の認知障害

 

 認知障害と認知症との境界を示す重要な特徴のひとつが生活自立能力である!

 アルツハイマー病前駆症状の年間進行率は17%で、脳卒中型軽度認知障害の年間進行率は20%!


 米国での認知症を伴わない軽度認知障害の有病率に関する初めての推計値を出す加齢と記憶の調査データによれば、71歳以上の者のうち22.2%が該当する。

Susan Jeffrey

 

【3月28日】

 「加齢、人口統計、記憶研究(ADAMS)」のデータから、米国民の認知症を伴わない軽度の認知障害保有率の初めての推計値が出された。それによると、71歳以上の高齢者の22.2%が軽度認知障害であり、人数はおよそ540万人になる。

 「高齢者集団のかなり大きな部分が認知症を伴わない認知障害であることを今回の結果は示している」と筆頭著者であるデューク大学医療センター(ノースカロライナ州ダラム)のBrenda L. Plassman, PhDが結論で述べている。

 しかし、「その者たちの症状と転帰が一様ではなかったことから、基礎原因はさまざまであると考えられ、(脳卒中防止や心血管系リスク低減といった)複数の方面で予防対策をとるチャンスがあると思われる」とも著者らは記している。

 この報告は、『Annals of Internal Medicine』3月18日号に掲載されている。

 

認知症の閾値

 著者らによると、認知症の段階にまで達していない認知障害は、認知症に進行するリスクが高いことがほとんどの研究で示されており、その年間進行率は、認知機能が正常な成人の認知症進行率が1%から2.5%であるのに対し、10%から15%であるとされている。認知症でない場合であっても、認知障害自体が、生活の質の低下、神経精神症状の増加、生活機能障害の増加、医療費の増加に寄与する。

 「こうした不良な転帰のすべてを勘案して、認知症を伴わない認知障害の有病率を正確に推計することが、認知障害が患者、家族、医療政策に与えるすべての社会的影響を算定するのに不可欠である」と著者らは記している。

 米国の地域や米国外のサンプルに基づいたこれまでの推計値では、3%から29%という幅があった。このばらつきの理由は、認知障害の診断基準の差と、サンプル集団の性質の差によるものである可能性がもっとも高い。米国での全国規模での推計値は現時点ではない。

 認知障害と認知症との境界を示す重要な特徴のひとつが生活自立能力であると、共著者のKenneth M. Langa, MD, PhD(ミシガン大学、アナーバー)が説明している。

 「そもそも、私たちが日々の生活を送るには、皆、誰か他者が必要だ。食事を作ってくれたり、支払いをしてくれたり、日用雑貨店への行き方を考えてくれたり。これらが、軽度認知障害と実際の認知症とを分ける重要な基準だ」とLanga博士はMedscape Neurology and Neurosurgeryに説明した。「認知障害がある者は、若かりし人生の絶頂期のようなことはできないが、それでも問題なく生活している。」

 今回の研究がデータを利用したADAMSは、さらに大規模な「健康退職者研究(Health and Retirement Study: HRS)」に由来している。この研究は、1954年以前に生まれた者の全国規模の代表コホートを対象にして、米国民の健康、社会、経済面での障害を調査するものである。ADAMSのサンプルは70歳以上の高齢者1770例で、そのうち856例が初回評価を受け、さらにそのうちの241例が追跡対象になり、180例が16から18カ月間の評価を完了した。

 在宅評価は、神経心理学的検査、神経学的検査、臨床症状履歴と医療歴で構成された。その結果に基づいて、認知機能正常、認知障害、認知症の診断に分けた。そして、ADAMS集団重みづけ標本を用いて、全国有病率を推計した。

 2002年の推計結果では、米国の71歳以上の集団の22.2%(およそ540万人)が認知症を伴わない認知障害であるとなった。

 著者らによれば、認知障害の中で多い亜型は、アルツハイマー病前駆症状と脳血管疾患であった。

 

認知症を伴わない認知障害(CI)の亜型

亜型

割合(%)

 アルツハイマー病前駆症状

34.2

 内科的問題

23.9

 脳卒中

15.5

 認知症を伴わない血管性CI

10.1

 抑うつなど精神疾患

5.1

 神経学的問題

5.2

 健忘症の軽度CI

2.8

 過去ないし現在のアルコール乱用

1.7

 基本的知能が低い、または学習障害

1.4

 

 追跡評価を完了した者の中では、年間に認知症を伴わない認知障害である者の11.7%が認知症に進行したが、その数は亜型によってばらつきがあった。例えば、アルツハイマー病前駆症状と脳卒中による認知障害の者の年間進行率はそれぞれ17%と20%であった。

 認知症を伴わない認知障害の者の年間死亡率は8%だが、内科的問題からくる認知障害の者ではほぼ15%であった。

 「この報告で興味深いと思う所見のひとつが、心疾患、うっ血性心不全、慢性閉塞性肺疾患といった高齢者でよくある内科的問題での頻度が認知障害の大きな寄与因子になっているらしいことだ」とLanga博士は語った。博士によると、認知症を伴わないCI(認知障害)のおよそ24%がそれで占められている。「認知障害の原因となるこうした慢性的問題との重なりの重要性は、これまであまり認識されてこなかったと我々は考えている。そのあたりが今回の研究で少しでも明らかになればよいと思う。特にプライマリケア医は、一般的な慢性疾患が患者の明晰な思考能力に大きな影響を与えることを心に留めておく必要がある。」

 さまざまな理由で、死亡しなかった対象者のうち初回評価を完了した者が56%しかいなかったという限界が今回の研究にはあることを、著者らは警告している。しかし集団から標本への重みづけによって、非回答者と自然減に起因するバイアスの少なくとも一部は補正されている。

 

認知症者数の矛盾?

 ADAMSの前回の報告(Plassman BL, et al. Neuroepidemiology. 2007;29:125-132)では、認知症を持つ者の数が340万人と推計されており、今回の報告による認知症を伴わない認知障害者の数はその認知症の患者数よりおよそ70%多い。

 アルツハイマー病協会が3月18日に出した最新の報告での推計では、米国でアルツハイマー病患者は全年齢で520万人であり、そのうち500万人が65歳以上で、65歳未満の早期発症型アルツハイマー病の者は20万人となっていた。

 協会の報告での全体に関する数値の一部はADAMSから得られたデータを採用しているが、その他の研究として、Chicago Health and Aging Project(CHAP; Hebert LE, et al. Arch Neurol. 2003;60:1119-1122)の所見も用いている。アルツハイマー病協会の求めに応じてDenis Evans, MDを上級著者にするその研究グループは、自分たちが以前採用した集団のデータを基に、2007年における65歳以上のアルツハイマー病の米国民の数を500万人と推計した。

 ADAMSによる340万人の中には、71歳以上のアルツハイマー病患者260万人が含まれているが、71歳未満のアルツハイマー病などの認知症患者は含まれていない。2008年での71歳未満の認知症患者の数はおよそ100万人と推計されており、この数に矛盾があることをこの報告は註で認めている。

 「CHAP研究(Hebert et al, 2003)とADAMS研究との有病者推計値が異なる理由の分析を今進めている」と、アルツハイマー病協会は報告で述べている。「この分析の結論は、今回のアルツハイマー病協会報告には間に合わなかったが、2つの研究の推計値の違いを明確にするのに役立つと期待される。」

 「認知障害を持つが調査での認知症判定基準は満たさなかった者に関してもうすぐ明らかになるADAMSのデータも、研究間での推計値の差を明確にするのに役立つだろう」とその報告は、Plassmanらの今回の研究について結論で述べている。

 Langa博士はこの問題について訊ねられて、こうした推計値の違いは、認知障害と認知症の間の線引きの違いからくることを明確にするのに今回の研究は役立つだろうと答えた。「認知機能のより高いレベルで線引きすれば、認知症患者の数は相対的に多くなり、認知症を伴わない認知障害者の数は相対的に少なくなる。」

 アルツハイマー病協会の医学科学関連担当副会長であるWilliam H. Thies, PhDも、それが推計値の差の理由のひとつである可能性を認めている。すべての症例が記録されて報告できる少数の疾患を除き、ほとんどの疾患は「必ず推計値を扱うことになり、したがって、採用する方法と対象とする集団とが、どういう数が導き出されるかに大きく影響する。結局は、プラスマイナスで200万人の幅が出てしまうのだ」とThies博士はMedscape Neurology and Neurosurgeryに語った。特にアルツハイマー病の場合には、診断のための過程であっても、「それがアルツハイマー病だとする宣言の一部は主観に基づいている。」

 協会は一貫性を保つために、CHAPのデータを採用することを選択した。しかしThies博士は、「推計値にばらつきがあるとしても、現在アルツハイマー病が多数存在しており、今後30ないし40年間で増えていくことは間違いない」と述べている。

 協会が提唱していることのひとつが、住民を対象としたアルツハイマー病調査の優れた調査方法である。「なぜなら、公衆衛生にとってきわめて重大な問題であることはほぼ間違いないからだ」と博士は最後に語った。

 

 ADAMS研究は米国立加齢研究所の支援を受けている。Langa博士は米国立加齢研究所の助成金とPaul Beeson Physician Faculty Scholars Awardを受けている。その他の著者の開示情報に、関連する金銭的利害関係はない。

(Ann Intern Med. 2008;148:427-434)

 

私の感想

 以下の3点がこの論文の肝ですね!

1)「高齢者集団のかなり大きな部分が認知症を伴わない認知障害であることを今回の結果は示している」と筆頭著者であるデューク大学医療センター(ノースカロライナ州ダラム)のBrenda L. Plassman, PhDが結論で述べている。

 

2)認知障害と認知症との境界を示す重要な特徴のひとつが生活自立能力であると、共著者のKenneth M. Langa, MD, PhD(ミシガン大学、アナーバー)が説明している。

 「そもそも、私たちが日々の生活を送るには、皆、誰か他者が必要だ。食事を作ってくれたり、支払いをしてくれたり、日用雑貨店への行き方を考えてくれたり。これらが、軽度認知障害と実際の認知症とを分ける重要な基準だ」とLanga博士はMedscape Neurology and Neurosurgeryに説明した。

 

3)追跡評価を完了した者の中では、年間に認知症を伴わない認知障害である者の11.7%が認知症に進行したが、その数は亜型によってばらつきがあった。例えば、アルツハイマー病前駆症状と脳卒中による認知障害の者の年間進行率はそれぞれ17%と20%であった。

 

 軽度認知障害と実際の認知症とを分ける重要な基準は、「生活自立能力」の有無であるという説明は明快なのですが、そうすると、同じレベルの認知障害であっても、田舎で暮らしている方は「軽度認知障害」と診断され、都会暮らしの場合には「認知症」と診断されてしまう場合が出てくるというもあり得ますね。

 アルツハイマー病前駆症状の年間進行率は17%で、脳卒中型軽度認知障害の年間進行率は20%と明記されており、ひと口にMCIと言ってもタイプ別に進行率が違うのだというデータは初めて目にしました。

 

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