若年痴呆:悲しみ苦しむ家族の声から

 

 薬に頼る介護の現場!


 「強い薬でだんだん(夫の)体と頭が弱っていく、悲しい、苦しい、これが私の本音でした」−。若年痴呆の患者や家族を取り巻く状況について、8月21日付「くらし面」で掲載したところ、特別養護老人ホームに夫が入所する千葉県のCさん(63)から、こんな文面の手紙をいただきました。在宅でも施設でも苦労する介護と、薬の使用について考えてみました。

(岩崎賢一)

 

入所2カ月手震え話せず

 「他人に暴力を振るうので、穏やかになる薬を使っていますが、これからはもっと強い薬を入れます。相手は弱いお年寄りで、危険を回避できません。ご主人は殺人罪になりますよ」

 Cさんの夫(63)はアルツハイマー病で、昨年11月、特別養護老人ホームに入所した。当初から薬を飲み始めたが、わずか3週間で「もっと強い薬」の使用を医師から持ち出された。

 Cさんは「お任せします、と答えるしかなかった」と漏らす。在宅介護に疲れ、やっと見つけた施設だったからだ。

 その3日後、面会へ行くと、夫の様子がおかしい。ソファに座っていたが、手と顔が震え、目の焦点が定まらない。看護師に相談すると、施設のスタッフが駆けつけ、「暴力を振るっています。退所もあり得ますよ」と強い調子でいわれた。Cさんは思わず「殺してください」と言ってしまった。「退所」という切り札を出され、自宅介護の苦しさがよみがえったからだった。その場で泣き崩れた。Cさんにすれば、「暴力」といわれるほどの行為ではなかったはずなのだが・・・。

 夫は日を追って弱っていく。1月、施設から「食事をしない。足元もよたよた。外部の病院へ入院の手続きをします」と電話が入った。入院の日には自力で歩けず、話すこともできなくなっていた。施設入所から2カ月もたっていない。「これで実の人生も終わりかも」と思った。

 病院では施設で飲んでいた薬をやめた。体調は快復し、何時間も散歩できるようになった。医師からは「看護する者が倒れたらダメですから気長に行きましょう」と声をかけられた。肩からすっと力が抜けた。

 夫は今、病院のベッドで拘束されている。食事の量が足りず、他の患者の食事を食べてしまうからだ。Cさんは夫の好物を作って病院へ通う。拘束を解くと、夫が喜ぶのが分かる。

 最近、次の行き先を探すよう、病院から暗に促された。Cさんは最初に入所した特別養護老人ホームも含め、5カ所ほどの施設に申し込みをした。在宅介護はもう限界だと思うからだが、今のところどの施設からも返事はない。

 

Dさんのケース

 (=アルツハイマー病の徘徊などに対して、統合失調症の典型的な処方を受けたケース:中略)

 

介護環境が第一。薬は最後の手段。

 Cさんの夫のように「会話ができたり、自由に動けたりする人が、わずか1〜2カ月で寝たきりになるほど痴呆が進むことはない」と東京都老人医療センターで痴呆の患者を診る高橋正彦医師は指摘し、薬が原因、と疑う。

 群馬県こころの健康センター所長の宮永和夫医師も「介護の負担を軽くするため、薬で動けなくしてしまう医師が多い。過剰投与で寝たきりになった人もいる」と話す。

一方、施設や病院の中には「人手が足りないので、歩き回る患者をみていられない」 「若年痴呆の人は体力的に元気。お年寄りにけがをさせたら、施設の責任を問われる」と、薬物依存を説明するところもある。

 また、Dさんの母親の場合のような統合失調症向けの薬は、痴呆の患者に向かないものもあるとされる。抗精神病薬を多用するとパーキンソン症状が出るが、その副作用を抑える薬の中には、痴呆症状を悪化させるものもあるという。

 高橋さんらもこれらの薬を処方するし、「薬物療法は必要」という立場だが、「できるだけ使わない方がいい。痴呆患者への対応は、第一に介護の環境を整えることであり、薬物療法は最後の手段。薬の使用量は介護施設の質の指標になる」と話す。

(以下省略)

(平成15年9月25日 朝日新聞・くらし)

 

私の感想

 リアルに若年性痴呆の介護・医療現場の状況が再現された記事内容だと思います。

 私もこれまでに10名ほどの若年性痴呆の患者さんの診療に関わってきました。いま診療している方の中にも、暴力行為で奥さんが介護に苦悩し施設も暴力行為があるため預かってくれず・・というケースを担当しております。

 今私が一番悩んでいるUさんは現在50代後半ですが、発症は50代前半の働き盛りでした。私の外来へ通院しだしたのは今春より。主に「介護相談」でした。投薬を変更して施設利用できるようになりましたが、また最近「暴力行為」が目立つようになったとのことで施設利用を断られましたので、日常生活に影響のでない範囲で投薬コントロールを試みましたが、比較的穏やかな薬ではコントロール困難で「家庭介護の限界」と判断し、入院下での投薬コントロールも検討してもらうため近くの痴呆専門病棟を持つ施設に紹介いたしました。

 担当医の先生より、ヒルナミン(5)2錠分2&セレネース(0.75)2錠分2&アキネトン2錠分2の3種類を28日分投薬されました。

 当初は、「穏やかになった」と奥さんも喜ばれておりましたが、数日するとCさんと同じような状況となりました。そのことを心配して私の外来に相談に来られました。奥さんは涙ぐまれて、「穏やかになるのはうれしいが、気力が無くなり目がうつろとなりました。デイサービスが利用できるようになっても、今の状況では本人にとってデイサービスは決して楽しいものでは無いですよね」と話されました。

 『統合失調症向けの薬は、痴呆の患者に向かないものもあるとされる。抗精神病薬を多用するとパーキンソン症状が出るが、その副作用を抑える薬の中には、痴呆症状を悪化させるものもあるという。』と記事文中にありますが、ヒルナミン・セレネースは「統合失調症向けの薬」で、アキネトンは「パーキンソン症状の副作用を抑える薬の中には、痴呆症状を悪化させるものもある」に該当します。

 私も若年性痴呆の介護環境整備が第一とは感じますが、一方では記事文中にありますように、『「人手が足りないので、歩き回る患者をみていられない」、「若年痴呆の人は体力的に元気。お年寄りにけがをさせたら、施設の責任を問われる」』というのが現場の本音なんだろうと感じております。

 最後に、われわれ医師にとっては、「興奮を抑える薬」はともすれば「身体の動きや食欲・気力」などにも影響が出るというのは常識なのですが、ご家族にとっては、「興奮症状だけ落ちついて他は今まで通り」という薬なんだろうという認識(イメージ)で薬物治療を開始する(してしまう)ご家族が多いのではないかと思いました。

 

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