その効果を信じることができなかった青葉教授は、抗痴呆薬の臨床試験(治験)を担当している助教授に、Aさんが本当にアルツハイマー病だったのかどうかを確認した。「ひょっとしたら、アルツハイマー病ではなかった可能性もありますね」助教授もそう言った。
果たしてAさんは本当にアルツハイマー病であったのか、そしてその抗痴呆薬が本当に効いたのか? 間もなく答えが出た。投薬を初めて3ヶ月後に、その薬は使えなくなったのだ(ミ治験中の薬であるため)。すると、Aさんは以前の状態に戻り、今では簡単にアルツハイマー病と診断がつくほどにボケてしまっている。
「E2020はいま、治験の最終段階である第3相試験が終わりかかっているところです。そのあと、さらに厚生省は300例の長期投与データを求めています。その試験が終わるのが、来年の3月位ではないでしょうか。そうなると、中央薬事審議会への申請は早くて来年の秋くらいでしょう。承認されるのはさらに2年位かかるでしょうから、患者さんが利用できるのは早くても2000年を超えてしまいます」(青葉教授)
アセチルコリンは脳の奥深くにある海馬と呼ばれる部位に多い神経伝達物質で、アルツハイマー病になるとこれが極端に減っていく。E2020はアセチルコリンの分解を抑える薬である。アセチルコリンの量を維持することによりアルツハイマー病の進行を遅らせようという薬であり、アルツハイマー病の本態である神経細胞の病的な死滅を防ぐことはできない。すなわち一時的な症状の緩和薬と考えておかなければならない。
アセチルコリンの減少を抑えたところで、神経細胞が死んでしまったら、薬が効く場所もなくなってしまいますから、E2020などの現在登場している抗アルツハイマー病薬の使用は、アルツハイマー病初期に投与されないと効果が上がりません。(青葉教授)・・・(私も同意見でそのために、「痴呆予防ドック」という試みでアルツハイマー病の早期診断に努めております。そのため多数の「痴呆がないのに素因のみの陽性者」が出てきており、副次的でありますが大きな問題点となっております)
E2020は初期でないと効きにくいのに、日本の治験ではアメリカと違って、初期の患者さんが除かれております。それは初期の患者さんは、プラセボ効果(偽薬であるのに、それを薬と思って飲んだ場合に、暗示効果から薬が効いてしまうこと)出やすいというのが理由となっております。プラセボ効果の倍効かなければ本当に有効とは評価されない。そのため日本では、プラセボ効果の出にくい、ある程度重症の患者さんを選んで治験が行われているのです(青葉教授)。
アメリカでのE2020のデータによると、5Jの投与で100人中15人が、10Jでは25人が1年前の状態に戻るという。
E2020に限らず、我々痴呆症の治療に携わる医師は、時折痴呆症が治ったのかな!と感じるほど著効する例を経験しております。しかし長期間経過を追っていると、診断が正しければ徐々に悪化傾向を示してきます。中には症状が全く悪化していかない例も経験します。そのような例では私も自分の「初期アルツハイマー病」という診断が本当にそうなのか?と思うこともあります。しかしアルツハイマー病第2期症状である妄想などが生じていたのが、それが消失して軽度の記憶障害だけになって進行もしないというような著効例はお目にかかったことはありません。