アルツハイマー型痴呆と脳血管性痴呆では、せん妄の発生頻度は各々17.6%と10.8%となる!
せん妄は通常1カ月以内の短い持続期間!
せん妄を引き起こす可能性のある薬物:まず抗パーキンソン病薬、H2ブロッカー、第3に鎮静系薬物の順!
日没症候群!
(冒頭省略)
はじめに
1)痴呆患者の入院
2)せん妄と痴呆の位置づけ
3)せん妄と痴呆の差異
ここでいうせん妄とは、認知機能の低下、睡眠障害や錯乱を伴った急性の精神症状群で、中枢神経系に侵襲が及んだ際におこる器質性精神障害の、代表である。痴呆症状群と比較すると、まず発症が急激で、何日ころ、何時ころからと時期を特定しやすい。次に症状の動揺性が明らかで、日内変動が見られる。第三に認知障害の可塑性がみられる。つまりせん妄期間中は認知機能が低下し異常行動が続くが、醒めると認知機能障害は元のレベルに戻る。痴呆ではいったん失われた認知などの脳機能が元に戻ることはないという特徴を持つ。
4)せん妄診断のジレンマ
さらに問題を輻輳(ふくそう)させているのは、せん妄の患者が、いままでに痴呆の診断を受けたことが無いかもしれないが、その基底に軽い痴呆を示していることが多いことである。実際には家族が単なる物忘れと思っていた症状が、かなり深刻なものであったりする。こうした混乱を生むのは、せん妄を綺麗にコントロールして初めて痴呆が存在するか否かの診断が成り立つからである。医学では一般に診断ができて初めて治療が可能になるわけだが、痴呆を伴うせん妄と診断するには、まずこれを治してみなければ診断がつかないというジレンマがある。
5)せん妄と痴呆の関係
かつては、せん妄は痴呆患者の部分症状として位置づけされていた。しかし今もなお、特に高齢者の場合では、せん妄と痴呆の二つを、おのおの独立した病態として捉えるには、余りに多くの症例で両者が共存するので、困難さを感じることが多い。
高齢者では脳症状としての器質性精神症状は複合体として出現し、せん妄と痴呆の関係はちょうど光と影の関係に近い。ある患者の繰り返される夜間せん妄(光)をコントロールしていくと、問題となっていた認知障害は次第に薄れ、脳血管性の重度痴呆(影)だったはずが、単なる脳血管障害後遺症へと診断が変わっていくことさえある。
1.痴呆患者にどの程度せん妄が発生するか
痴呆患者をどこでサンプリングしたかによって頻度についての数字は大幅に異なる。本間(参考文献:省略)によれば、在宅、特別養護老人ホーム入所中では13.8%と14.7%の頻度とされる。これに対して精神科外来受診者を対象とすると19.8%とより高率になる。もちろん精神科外来受診の動機が、せん妄のあるためというのが多いからである。痴呆患者を病型によって分けて比較する。アルツハイマー型痴呆と脳血管性痴呆では、せん妄の発生頻度は各々17.6%と10.8%となる。サンプル数が、おのおの53例、37例と少数なのが気になるが、これにはsun−downing syndrome(いわゆる日没症候群)を含めている可能性がある。また痴呆の重症度が進むにつれてせん妄の発生頻度は増すという。
いずれにしても痴呆患者の約15〜20%にせん妄が発生すると考えられる。また総合病院の精神科では、内科あるいは外科病棟からの高齢者の診察依頼はうつかせん妄のどちらかと言ってよい。
一般病院の入院患者ではせん妄の発生率は10〜15%とされ、加齢にしたがって増加する。65歳以上の高齢者では若年者に比し4倍の頻度となるという。痴呆など中枢神経系疾患ではより発症しやすい。準備因子の関与が大きいと考えられる。
またICU・CCU環境では誘発因子の関与が大きいため、より高率にせん妄が発症する。
2.せん妄の診断基準
3.せん妄の発症構造
4.せん妄治療の基本
治療の基本戦略は第一に直接原因を明らかにし、適切な内科的あるいは外科的処置により背景にある器質因子を取り除いたり、補正する。せん妄の治療は基本的には、せん妄を引き起こす器質的原因に対する治療といえる。直接原因のうち、われわれの経験した頻度順に挙げると、薬物中毒(離脱)、代謝性脳症(肝、腎不全)、慢性硬膜下血腫、アルコール性、てんかん、脳血管障害急性期となる。各科との協力のもとに原因治療を行う。
第2に誘発因子に対する働きかけがある。適切な睡眠・覚醒リズムの確保、痛みなどのストレスのコントロール、感覚遮断の要素を取り除き最適な身体環境を確保するための対症療法を行う。準備因子に対しては治療的な働きかけは困難である。
第3に治療妨害要因の除去である。精神運動性興奮、自傷など検査や治療を行う上での障害を軽くすること、二次的合併症を避けることの2点にある。薬物療法による介入が主な手段である。
5.紛らわしい病態、夜間せん妄と日没症候群の鑑別
痴呆患者の行動障害のうち、いわゆる夜間せん妄(noclumal delirium)、夜間不穏(noctumal confusion)と日没症候群(sundown syndrome.sun−downing syndrome)は大きな共通点がある。両者とも急性の認知障害、注意障害、行動障害、見当識障害を示す状態、つまりせん妄(delirium,acute confusional state)を呈する点である。この二つはまず大きくせん妄のカテゴリイの中に属する。われわれの印象では、この2つの亜型(subtype)の差は睡眠・覚醒リズムがどのくらい障害されているかによると思われる。また治療的経過を考えたとき、せん妄では睡眠・覚醒リズム障害が軽快するのに並行して行動障害が改善するのに対して、日没症候群ではそれが一致しないように思われる。両者に病態生理的な差異があるのかが次の検討課題である。
1)日没症候群とは
日没症候群(sundown,sundowning syndrome)の定義は未だに確定したものはないが、行動障害が一日の内の一定の時間に出現するという時間生物学的な指摘が共通する。時間帯として症状発現のピークの時刻は4時30分から5時30分前後と考えられ、遅い午後または準夜帯の早い時間とされる。
2)両者の位置づけ 一日没症候群とせん妄一
日没症候群がどのようにしておきるのかについては不明である。しかし、その症候から考えて、いわゆる夜間せん妄と症状を共有していることは明らかである。まず行動障害の程度が動揺性を示す点。また注意障害、認知障害、精神運動性障害を示す点である。しかし一方、せん妄で見られるような高い致死率を示す急性の神経疾患などとは関連が薄い点が挙げられる。日没症候群では、その症状に重篤感が感じられない。この点は大きな相異点である。
認知、注意、睡眠覚醒パターン、精神運動性の症状、夜間に増悪するといった点から両者は区別が難しい。しかし、Evansはせん妄は通常1カ月以内の短い持続期間を示し、軽快するか死亡するかによって終わると述べる。後者のパターンは日没症候群では見られない。またせん妄自体が遅い午後あるいは早い準夜にあらわれるのをもって日没症候群と呼ぶこともある。こうした混乱から両者を分別するのはさらに難しくなる。
6.薬物療法の基本方針
1)治療自体が悪循環を作っていないか?
すでに投与されている治療薬がせん妄を引き起こしている可能性が常にある。超短時間作用性のベンゾジアゼピン系薬に注意を要する。また皮肉なことだがせん妄治療のための薬物が、比較的短時間のうちに背景の身体疾患をさらに増悪し、悪循環をつくってしまうことがある。ここでせん妄を引き起こす可能性のある薬物についての表1を掲げる。われわれの経験では、まず抗パーキンソン病薬、H2ブロッカー、第3に鎮静系薬物の順である。
2)対症療法としての鎮静化は最小にとどめる。
鎮静化が肺炎を悪化させ、致死的状況となることがある点に特に注意が必要である。高齢者では向精神薬(フェノチアジン系やブチロフェノン系薬)の投与でパーキンソン症状が出現しやすく、嚥下障害から誤飲性肺炎をおこしたり、悪性症候群を呈することもあり抗ドーパミン薬は慎重に投与すべきと思われる。癌末期の麻薬投与時や腎不全末期のケースで半昏睡に挿間したせん妄がみられる事がある。こうした時には鎮静化をしないほうが生命予後に良いことがある。DICや多臓器機能不全の患者では、意識障害の評価を不確実にする可能性があるため、鎮静目的の投薬は避けたい。
7.薬物治療の実際
8.効果の判定法、せん妄評価尺度
(都立豊島病院 ・ 一瀬邦弘、島 陽一 ほか)
私の感想
せん妄に関する詳細な報告がなされましたね。原因薬剤、鎮静と肺炎の関係など、多くの警鐘がなされました。
「日没症候群」という聞き慣れない単語、せん妄の予後など、素晴らしい内容の論文だと思います。