超高齢者の痴呆 

 

 超高齢痴呆群の臨床像は記名力、見当識などの認知機能の低下は軽度!

 辺縁系神経原線維変化痴呆(limbic neurofibrillary tangle dementia ; LNTD)!

 超高齢痴呆患者では、集団的作業療法よりも、不安・せん妄・抑うつなどの精神症状に対する個別の精神療法的対応(支持的対応)が大切!


 近年、八〇歳代後半以降の人口増加が著しい。痴呆は加齢が危険因子でもあるため、超高齢者(通常、八五歳以上ないし九〇歳以上の者を指す)の増加は超高齢痴呆患者の増加を意味するが、これまでこの世代の痴呆は老年痴呆として一括されていた。老年前期に発症する老年痴呆と老年後期に発症するそれさえも区別することは少なかった。しかし、老年前期と老年後期では発達課題、精神・身体特性が異なるため、当然痴呆の病像も異なり、必然的にその対応法も異なることが考えられる。ましてや、老年後期の中でもより後半期に相当する超高齢期の痴呆の臨床症状を、老年期全体を包括する槻念である老年痴呆と同一にみなし、対応することは不可能である。

(中略)

 九〇歳以上になって初めて痴呆症状が問題となり精神科に入院した患者群(九〇歳代痴呆群。超高齢痴呆群)と通常の老年痴呆群を比較すると、超高齢痴呆群では「集中力の障害」「覚醒度の障害」「速い動作の困難」「注意力散漫」がより重度で、「見当識の障害」「記憶の障害」は軽度であった。また、問題行動では「夜間覚醒」の頻度が高く、「物をなくす、置き場所を間違える、隠す」「物を貯めこむ」「引き出しや箪笥の中身を出してしまう」「歩き回る」「同じことを繰り返す」「外に出て行く」の頻度が低かった。

 このように、超高齢痴呆群の臨床像は記名力、見当識などの認知機能の低下は軽度である反面、思考速度の緩徐化、集中力の低下、情動の障害、覚醒の障害などがより重度であることを特徴としている。また、超高齢痴呆群では、老年痴呆で出現頻度の高い徘徊症状が認められにくい。このことは頭頂葉機能や側頭葉機能が比較的保たれていることを示す所見である。

 これらの特徴から、超高齢痴呆群は本来在宅で穏やかに過ごすことが多いが、一部の症例では不安、錯乱、抑うつ、夜間不眠などの症状が著しく出現したり、頑固な性格に由来する情動の障害から介護困難を起こし、精神科の入院を必要とする場合もある。以上のように、痴呆の中核症状である知的機能の低下のほか、加齢と関係した機能の低下、生来の頑固な性格が入り交じり、超高齢者痴呆群は老年痴呆と異なった病像を呈する。

 超高齢者の痴呆に対する治療法は、こうした不安、せん妄、抑うつなどに対して、少量の睡眠導入剤、抗うつ薬、抗精神病薬の投与が一般的であるが、抗痴呆薬ドネペジルも、アセチルコリン、ドパミンの均衡不全を是正し、これらの症状を改善する可能性がある。

(中略)

 一方、神経病理学的観点から、海馬、海馬傍回に限局し、老人斑がまったくみられないか、乏しい反面、神経原線維変化が豊富に存在するタイプの痴呆が知られている。これは辺縁系神経原線維変化痴呆(limbic neurofibrillary tangle dementia ; LNTD)と呼ばれており、超高齢発症の痴呆に多く、知能の低下や人格の低下が軽度であるとされ、老年痴呆から区別されている。

(以下省略)

   (国立下総療養所精神料医長   堀 宏治)

(参考文献:平成13年8月18日号日本医事新報NO.4034 一週一話)

 

私の感想

 すごく着眼点が良い論文ですね。私も「超高齢痴呆患者」は老年痴呆患者と随分特徴が違うような気はしておりましたが、ここまで明確に論説したのは見事です。

 省略しましたが、「超高齢痴呆患者」では、「集団的作業療法よりも、不安・せん妄・抑うつなどの精神症状に対する個別の精神療法的対応(支持的対応)が必要である」という記載も大変参考になりました。

 

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