ところが、実際にそういう人の前頭前野機能を測定してみると、痴呆が見つかることはまずありません。
また、記憶力テストで「新しい情報を覚え込む能力」「入ってきた情報を保持する能力」「記憶の倉庫から必要に応じて引き出す能力」とを分けて調べても、確かに若いころの能力よりは低下していますが、たいていの人は年齢相当の正常な範囲にあります。
記憶力は、年をとるとともにだれでもほぽ直線的に低下してくるものです。65〜70歳になると、20歳代のころと比べて半分程度に低下しているのが普通なのです。
ですから、そのような場合、「あなたの記憶力は若いころよりは低下していますが、年齢相当からすれば完全に正常範囲内にありますよ」と言うと、みなさん、元気l00倍になって帰っていかれます。
ですが、ごくまれに明らかに異常に記憶力が低下している人が見つかることがあります。なかには、約15秒後にはほとんど何も覚えていないような人もいます。それでも、痴呆ではないのです。
記憶力は、脳の側頭葉の内側にある「海馬」という場所になんらかの障害が起きると低下します。海馬は、新しい情報を脳の倉庫にしまいこむ際の関所のような部位です。その一部に故障が起こっただけなのです。この海馬機能の衰えによる物忘れを「側頭葉性健忘」または「海馬性健忘」(健忘とは忘れっぽいこと)と言いますが、これとボケは無関係です。
こうした障害による物忘れが起こっても、人間らしく生きるための高次の精神活動には大した妨げになりません。発想力や計画性、感動などは失われず、表情も豊かで生き生きと生活できるのです。
(浜松医療センター副院長 金子満雄)
しかしこのような方(純粋な重度記憶障害のみ)で、実際にアルツハイマー病でない方がみえることも事実です(低酸素などで海馬だけが選択的に萎縮している方で、アルツハイマー病とは言いませんが、「海馬性痴呆」という疾患として捉えられております)。