アルツハイマー病の性格変化

 性格の質的変化が初発兆候!


この道 65

   白木博次(元東大医学部長)

 だれでも年をとれば記憶が鈍ってくるものである。ある程度性格も変わってくるものの、それが生理的範囲にとどまっている限り、それは「老人ボケ」とはいえない。

 つまり、だれでも年をとればものを新しく記憶する力、専門用語を使えば記銘力が落ち込むものの、古い記憶は原則としてよく残っているものである。

 また若いときの性格特徴が年とともに明瞭かつ尖鋭的に拡大し、多少とも周囲と非調和になるのも、ある程度は生理的であろう。

 たとえば慎重さが頑固に、節約がけちに、上品さが人嫌いに、積極さが出しゃばりに、のんきが鈍感に。このような変化が高齢化とともにみられたとしても、それらは量的な変化としてある程度は理解されるだろう。

 言葉を換えて言えば、そこには連続性があるといえようし、程度にもよるが、社会生活にはそれほど支障をきたすものではない。

 だが一方、若い時の性格特徴が、老人になってまったく逆の性格の方向に転じて周囲と非調和になれば、それは「ボケ」の始まりである

 たとえば温和・融通性・思いやりが、短気・頑固・自己中心的・猜疑的に。敬けんな信心家が無頼・遊蕩(ゆうとう)癖に。乱費癖がけちに。これらの両者には、質的な意味で相当な断層がある。

 「ボケ」の初期症状はまさにこの種の性格の質的変化から始まり、ついで量的にも拡大的に変化していく(記憶の障害はずっと後になって現れてくるものである)。だから、身近な家族が一番先に気づいてよいはずである。

 ところが親の欲目という言葉があるように、身内の人はもとより、もともと病識(本人が病気であると自覚すること)のない本人が、自らの意思で早い時期に痴呆症の専門医を訪れることはほとんど期待できない。

 「老人ボケ」は大ざっぱにいって三種類に分けられる。脳血管性痴呆、アルツハイマー病、ピック病である。ピック病は日本では数が少ないのであまり重視されていない。しかし、実態的には三種のものが、相互に混じり合って出現してくるのが、最近の傾向とみられる。

 

(参考文献:平成9年8月16日、中日新聞・夕刊)

 

ご意見はこちらまで

ホームへ戻る