ドネペジルによるアルツハイマー病の精神障害治療

 

 プラセボと効果に差はなし!

 アルツハイマー病患者の精神障害を治療するランダム化試験において、ドネペジルはプラセボを越える治療効果を示さなかった!


 ドネペジル(商品名アリセプト)はアルツハイマー病患者の認知機能を改善するが、精神障害の治療ではプラセボ以上の効果を示さないことがランダム化試験で分かった。

 このTrial of a Cholinesterase Inhibitor and Atypical Neuroleptic in the Management of Agitation in Alzheimer's Disease(CALM-AD)試験の結果は、『New England Journal of Medicine』10月4日号に発表されている。

 2006年に発表されたClinical Antipsychotic Trials of Intervention Effectiveness trialの結果で、アルツハイマー病患者の精神病、精神障害、攻撃的行動の主力治療薬である第二世代抗精神病薬とプラセボは効果に有意差がなかった。このことを受け、第二世代抗精神病薬の有効性については「大きな問題があった」と筆頭著者のロンドン大学キングス・カレッジ精神医学研究所Robert J. Howard, MRCPsychらは同記事で結論する。

 「我々の試験結果は、コリンエステラーゼ阻害薬がアルツハイマー病による臨床的に重要な精神障害の代替治療薬にならないことを意味する」と著者らは記述している。

 

「よくみられる厄介な症状」

 精神障害とは、不安、怒りっぽい等の症状のほか、徘徊する、叫ぶ、攻撃的になるなどの行動に結びつく不穏状態を含めた関連症状群である、と著者らは記している。「アルツハイマー病の行動および精神症状は介護者にとって悩みの種であり、これによって在宅看護への移行が早まることも多い」と著者らは指摘している。

 非定型神経遮断薬の効果は短時間でそれ程高くなく、脳卒中や死亡など重大な副作用を引き起こす可能性があるにもかかわらず、精神障害治療の中心的薬剤となっている、と著者らは指摘する。コリンエステラーゼ阻害薬はアルツハイマー病患者の認知機能を改善することが分かっているが、精神障害が重く治療適応となる場合は、まだ確実に効果があるとはいえない、と著者らは記している。

 この問題を調べるため、Howard博士らはアルツハイマー病患者272名において臨床的に重大な精神障害をドネペジルまたはプラセボで12週間治療し、その効果を比較するランダム化試験を実施した。もともとはリスペリドン(商品名Rispendal、Eisai社)投与群が含まれていたが、リスペリドンとオランザピンを認知症の行動症状治療に使用するべきでないとの勧告がUnited Kingdom Safety of Medicinesから出され、2004年3月に試験は一時中断した。そして2004年7月、ドネペジルとプラセボの比較試験が再開された。

 「精神障害の治療では、まず非薬物的治療を試みることが最善策であり、先行研究におけるプラセボの奏効率は40%以上であった。このため、我々は精神障害が重く臨床的に薬物治療を必要とし、4週間の心理社会的治療で精神障害が改善しなかった患者のみを登録した」とHoward博士らは述べている。

 主要評価項目は、12週時のCohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)スコアの変化であった。これは29-203点の評価尺度で、スコアが高ければ精神障害が重症であることを意味する。

 その結果、投与前から12週までのCMAIスコアの変化で、ドネペジルとプラセボに差はなかった。差分の推定平均値(ドネペジルの変化値からプラセボの変化値を引いた差分)は-0.06(95%信頼区間-4.35 - 4.22)であった。

 CMAIスコアが30%以上低下した患者は、プラセボ群が20.4%であったのに対して、ドネペジル群は19.5%であった。Neuropsychiatric Inventory(NPI)、NPI Caregiver Distress Scale、Clinician's Global Impression of Change(CGIC)でも群間に有意差はなかった。「プラセボと比べて、ドネペジルの有意な治療的利点は認められたなかった」と研究者らは結論する。

 

蓄積されたエビデンスの縮小

 同発表の付随論説で、カリフォルニア大学(サンフランシスコ)および米復員軍人局附属サンフランシスコ医療センターのKristine Yaffe, MDは、現段階で米国食品医薬品局は認知症患者の神経精神症状の治療を承認していないと指摘する。「しかし、特に抗精神病薬の適応外使用は実際によく行われている」と記している。

 CALM-AD試験の結果は「コリンエステラーゼ阻害薬が神経精神症状、あるいは少なくとも精神障害の有効な治療薬であるという蓄積されたエビデンスを縮小させるもの」とYaffe博士は記している。研究者らが指摘したように、精神障害は同質的臨床現象ではない可能性があり、これが同試験の潜在的限界であるとYaffe博士は記す。

 「エビデンスを総合すると、精神障害はコリンエステラーゼ阻害薬の適切な標的ではないようである。しかし、神経精神症状を伴うアルツハイマー病患者の認知障害をコリンエステラーゼ阻害薬で治療し、神経精神症状の消失を評価してから他剤を検討するというのなら筋が通っている」とYaffe博士は記している。

 神経精神症状へのアプローチを説明したガイドラインでは、非薬物療法による介入をはじめとする第一段階から、段階的にステップが解説されている。だが「今回の試験結果を受け、この研究分野そして最も重要な部分である臨床医と患者が身動き取れない状態になっている。認知症および神経精神症状を有する患者の行動治療および心理社会的治療を目的として適切にデザインしたランダム化対照試験を行う必要性が明らかにある」。

 ベータアミロイドペプチドの沈着を減らしたり、その排泄を促したりする新規疾患修飾薬が開発されているが、これら薬剤の神経精神症状に対する有効性は「研究の価値がある」とYaffe博士は結論する。 「それまでは、現在あるものの長所と短所を勘案し、有効性と副作用を監視することがやはり最善の策である」。

 英国医学研究評議会(MRC)およびアルツハイマー協会がこの試験を支援した。Janssen社はリスペリドン、英国Eisai社はドネペジルを提供した。

 Howard博士は、Pfizer/Eisai社、Janssen-Cilag社、Lundbeck社の顧問委員を務めており、Pfizer/Eisai社から講演料を受け取っていることを開示した。Yaffe博士は金銭的利害関係はないと情報開示した。金銭的利害関係の開示情報一覧は原著に記載されている。

(N Engl J Med. 2007;357:1382-1392, 1441-1443)

 

私の感想

 明確なデータの裏付けはなかったのですが、私も、アルツハイマー病による問題行動の改善を期待してアリセプトを投薬するケースがありましたが、今回の文献を読む限り、あまり効果の期待はできないようですね。

 

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