ドネペジルのアルツハイマー型痴呆に対する効果と適応

 

 大声や早口で喋ったり、破壊行為、他人への脅迫行為などの問題行動がドネペジル投与六カ月後に明らかに減少


〔質問〕

一 塩酸ドネペジル(アリセプト)のアルツハイマー型痴呆に対する効果について。

二 進行を抑制するとのことであるが、改善ではないため、その判定時間を含めた基準はどのように考えればよいか。例えば、老人保健施設に入所している軽症〜中等症のアルツハイマー型痴呆に一律に投与する価値はあるか。  

(群馬 T生) 

 

〔回答〕

 塩酸ドネペジル(ドネペジル)は、わが国でアルツハイマー型痴呆(ATD)の治療薬として承認された唯一の薬剤である。この薬剤は、アセチルコリンエステラーゼ(AchE)阻害剤であり、この他に現在欧米で承認されている同種の薬剤にタクリン、リバスチグミン、ガランタミンがある。

 ドネペジルは、痴呆の進行を約九カ月遅らせる効果はあるが、痴呆の進行を停止させたり、認知機能を正常まで改善させる薬効はない。また、Cummingsらによると、大声や早口で喋ったり、破壊行為、他人への脅迫行為などの問題行動がドネペジル投与六カ月後に明らかに減少したことから、ドネペジルの長期投与により、ATDの行動障害出現を抑制する効果が期待できる。

(中略)

 ATDに有効な治療薬がなかったこれまでの医療は、いつも消化不良であった。ATDと診断しても、なす術がなく、ただその進行を見守っているにすぎなかった。特に若年性のアルツハイマー病は、その進行が速く、また社会的にも生産性の高い患者であるが故に、様々な悲劇を見せつけられてきた。介護する家族は抜け道のない暗闇をただ手探りで歩いているょうなもので、毎日が地獄の日々であった。

 このような現状で、ドネペジルの登場に対し、臨床家や家族のみならず社会的にも大きな期待と注目が寄せられるのも当然である。しかし、ドネペジルは一度障害された脳の機能を取り戻す力もなければ、ATDの進行を完全に抑制する力もない。冒された認知機能をわずかに改善し、その周辺症状も多少改善する程度で、いずれまた痴呆は進行してしまう。それにもかかわらず、この薬剤はATDの臨床に期待通りの役割を果たせるのであろうか。

 確かに、ドネペジルは今までの治療薬とは質を異にする。臨床家は、病気を快復させ、いずれ社会生活に復帰させることを目指し、適切な薬剤を選択し、治療に邁進する。ドネペジルの場合は、それが期待できない。さらに、ドネペジルは初期あるいは中期の患者が適応となるが、この時期は介護が大変な徘徊、攻撃、拒否などの行動障害を多くみる時期で、その大変な介護の時期を長引かせてしまうことにもなりかねない。

 それゆえ、ドネペジルが臨床で有用な薬としてその威力を発揮するためには、よりよい介護環境を提供し、家族が少しでも長く存宅で患者を介護できる環境が伴わなければならない。そこで臨床家にとって必要なのは、家庭介護者の介護負担に対する共感と、痴呆に冒されても安定した生活を維持できるような介護環境を提供する努力である。そのためには、ATDの臨床では「介護も治療の一環である」ことの認識を持つことである。

 では、施設入所あるいは入院している患者にドネペジルの効果が期待できるであろうか。前述したように、ドネペジルは痴呆の進行と行動障害の出現を抑制することから、このような環境の患者であっても当然本剤の効果は期待できる。しかし、その際には在宅の患者と同様に、施設介護が患者に対して「家庭的雰囲気の介護」すなわち“home like atmosphere”のを提供することが不可欠である。

(聖マリアンナ医大東横病院神経精神科助教授 今井幸充)

(参考文献:平成13年2月3日号 日本医事新報・質疑応答)

 

私の感想

 著作権の関係で全文はご紹介できませんが、アリセプトの効果と限界に関してよくまとめられているのでご紹介いたしました。

 介護の上に立つ治療というスタンスが大切だという今井先生のご意見もっともだと思います。

 まだまだドネペジルの「限界」をご存じないご家族が多いのが現状ですが、私はドネペジルによる治療を開始する時点でこの「限界」について説明することにしております。

 

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