重度な副作用の回避が課題!
〔米ミシガン州アナーバー〕
アルツハイマー病(AD)に罹患している米国人は450万人にものぼるが,ワクチンにより生体本来の免疫系を強化すれば,ADの進行の抑制,あるいは予防さえも可能になるかもしれない。ミシガン大学保健システム(アナーバー)のSid Gilman教授(神経学)らは「最初のワクチン投与試験は重度な副作用のため中止を余儀なくされたが,この教訓を踏まえた新規臨床試験のための準備が現在進められている」とNeurology(2005; 64: 1553-1562,1563-1572)に発表した。
Aβ群の6%で脳髄膜炎が発現
Gilman教授をはじめとする国際研究チームは,軽度〜中等度のAD患者372例(50〜85歳)を 2 群にランダム化割り付けし,二重盲検方式で,300例にアミロイドβ蛋白質(Aβ:AN1792),72例にプラセボ(生理食塩液)を投与した。同試験は Aβ投与群の 6 %で脳髄膜炎が発現したため,2002年の早期に中止されたが,患者のモニタリングは最終投与後も 二重盲検状態を維持したまま 1 年間継続した。その結果,Aβに対する免疫応答を示した被験者(抗体応答群)は,一連の記憶試験でプラセボ群よりも有意に優れていたことが判明した。
また,投与前後に行った脳のMRIでは脳組織の縮小が示され,プラセボ群57例よりも抗体応答群45例で顕著であった。同教授は「この所見はわれわれの予測とは逆であったが,この場合に記憶が相対的に保持されていたことは注目に値する。免疫応答の結果,脳からAβが取り除かれるとともに水分も排出され,脳組織の縮小が促進されたのではないか」と述べている。さらに,抗体応答群の一部では,タウ蛋白質(脳における細胞死を反映するとみなされている構造蛋白質)の髄液中濃度がプラセボ群と比べて低下しており,脳細胞の死滅速度の低下を示していると考えられた。
同試験のデータ安全性監視委員会の委員長でもある同教授は「Aβを異物とみなして攻撃する免疫系を導入するというのは,非常に有望な考え方である。今後は免疫応答を安全に誘導し,認知機能を維持しながらADの進行を抑えることが可能かどうか調べる必要がある」と述べている。
一部の検査で成績に有意差
Gilman教授によると,そもそもAβワクチンの接種という概念は,Elan社(カリフォルニア州サウスサンフランシスコ)のDale Schenk氏によって初めて提唱された。同氏らは既に1990年代後半に,AD様の疾患を発症する系統のマウスに生下時からワクチンを接種すると精神機能の低下を予防できること,さらには老齢マウスにワクチンを接種すると認知機能が回復することを示していた。
このような有望な動物実験の結果と,さらにはヒトAD患者に対する第 I 相試験で有害な影響が認められなかったことから,第 II 相試験が行われたが,前述のように,数例で髄膜脳炎が報告されたため,治験のスポンサーである同社とWyeth Pharmaceuticals社(ペンシルベニア州カレッジビル)の完全な同意を得て試験は中止され,被験者の治療に関与しない独立した専門家から成るデータ安全性監視委員会に報告された。
全体では,Aβを 1 回以上投与された300例中59例で,血中に有意な量の抗Aβ抗体が生じた。これら59例の抗体応答群のうち 3 例を除く全例が,試験中止前に 2 回以上の投与を受けていた(うち 9 例は 3 回)。59例中13例で脳炎が生じ,抗体応答群以外の 5 例でも脳炎が確認された。
ADなどの痴呆患者でよく用いられる 5 種類の検査の成績については,プラセボ群とAβ群とで統計学的有意差はなかった。しかし,記憶,実行機能,言語能力を測定する他の検査では有意差が認められた。
試験中止前に21例から採取した髄液からも,興味深い手がかりが得られた。抗体応答群11例をプラセボ群10例と比べると,タウ蛋白質のレベルが有意に低下していたのである。
第 I・II 相試験の終了または中止後数年以内に死亡した被験者の剖検からは,決定的とは言えないまでも有望な情報が得られた。ワクチン接種と無関係な理由で死亡した 3 例の脳内に,Aβの消失をうかがわせる大きな斑が認められたのである。一方,タウ蛋白質は依然として視覚的に観察できた。この 3 例中 2 例は脳炎を生じていた。さらに,第 I 相試験においてAβを 4 回投与された別の被験者では,脳組織に免疫系細胞(小膠細胞)がAβを除去したようなエビデンス,すなわち免疫応答が活性化した徴候が認められた。
ヒト化抗Aβ抗体投与を開始
これらの結果を踏まえたうえで,ミシガン大学では第 I 相安全性試験を終了した別のADワクチン免疫療法に関する第 II 相臨床試験の準備を進めている。同試験は脳炎リスクを上昇させずにAβに対する免疫攻撃を促すのが目的で,米国内の30施設が参加し,一部施設では既に投与が開始されている。なお,今回の試験もElan社とWyeth社の支援を受けて実施されている。
同大学神経学のNancy Barbas博士は「この免疫療法に対する期待は大きい。前回の臨床試験の経験を踏まえ,新規試験は細心の注意を払って保守的に計画されている。なんらかの効果が示されれば,患者とその家族によりよい治療選択肢を提供するための大きな一歩となるだろう」と述べている。
この新規試験では,被験者にAβ自体ではなく,Aβ分子の一部に対するヒト化抗体を投与する。この抗体は免疫系がAβを攻撃するきっかけとして役立つと考えられるが,投与後すぐに消滅するため, 6 回の連続投与を通じてAβへの攻撃を身体に“記憶させる”のである。新規試験でも,前回の試験と同様,被験者を 2 群にランダム化割り付けし,二重盲検方式で抗体またはプラセボを投与する。新規試験への登録予定者は,ADの疑いが濃厚と診断された成人180例(50〜85歳)で,脳画像検査,神経心理学的検査,血液検査を円滑に行うため,介護者が頻回に患者を来院させることができるという条件を設ける。一部の被験者には,別の血液検査あるいは髄液検査を追加実施する。これにより抗体獲得のための機会が多少増えると考えられる。
同博士は「新たな臨床試験は中止された前回試験のデザインを踏襲するもので,検査項目にはMRI,心電図,血液・尿検査,一般的なバイタルサイン検査,記憶力・思考力検査が含まれる。投与はすべて1年目に実施し,2年目にはフォローアップ検査を行う予定である」と付け加えている。
私の感想
日本国内でのアルツハイマー病ワクチン療法の開始は遅れているようで、「開始」のニュースは入ってきませんね。