認知症の早期治療

 

 ワクチン療法と早期診断の重要性!


 もの忘れがひどくなってくると誰しも「認知症のはじまりでは・・」と心配になりますね。実際に私が担当している「もの忘れ外来」にもそのような動機で多くの方が受診されます。

 認知症の治療薬(塩酸ドネペジル 商品名:アリセプト)の存在が広く知れ渡るようになり、早期発見・早期治療の大切さが強調されてきています。

 アリセプトは現在でも国内唯一の治療薬です。その効果として、病気の進行を9か月程度遅らせることが確認されています。また最近では、アリセプトには認知機能低下抑制効果だけではなく、海馬(かいば:海馬が障害されると新しい情報を長期記憶に留める能力が損なわれる)の萎縮抑制効果があることも報告され、認知症予防という面からも注目されています。

 さてそれではもの忘れと認知症の関係はどうなっているのでしょうか。

 認知症は、「知的機能の障害により、日常生活や社会生活が営めなくなった状態」と定義されます。食事をしたこと自体を忘れて「嫁がご飯を食べさせてくれない」と言ったり、自分でしまい込んだのを忘れて「お金をとられた」と騒いだりするため、家族や近隣の人々とのトラブルに発展することも多いのです。認知症と混同されやすいものに、加齢による「良性老人性もの忘れ」(=加齢性記銘力障害)がありますが、こちらは「なかなか覚えられない」とか、「なかなか思い起こせない」といったもので、知能の障害は認められません。認知症では、記憶力の低下に加えて、計算力、判断力といった認知障害が起こるため、日常生活に支障をきたしてきます。

 さて最近の研究から、認知症ではないものの、知的レベルの落ち方は正常老化とはいえない時期が、認知症になるかなり前から存在していることが分かってきました。そしてこれを軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)と呼ぶようになりました。

 軽度認知障害とは以下のような状態です。1)自覚的な記憶障害の訴えがあり家族などからも指摘されている、2)年齢に比し異常な記憶力低下、3)記憶以外の認知機能は正常、4)日常生活は普通

 MCIと診断された患者さんを追跡すると1年で約15%がアルツハイマー病に進行することが分かってきました(進行型MCI)。ただ最近の研究では、MCIには非進行型も存在することが分かってきました。専門的な話にはなりますが、非進行型の特徴としては、脳脊髄液タウ値が正常範囲内で、MRIにおいて脳室周囲白質病変が比較的高度でした。MCIの約70%が進行型、30%は非進行型です。

 多くの患者さん・ご家族が望んでいることは、進行型MCIの進行抑制による認知症発症予防です。

 日本ではMCIに対するアリセプトの保険適応はないのですが欧米では既に臨床試験が行われ、MCIに対してもアリセプトが有効であったと報告され、早期治療の有用性が示唆されました。

 そして遂に、アルツハイマー病の経口ワクチン療法の臨床試験も開始されそうです。

 アルツハイマー病において最も早く現れる病理学的変化はアミロイドの沈着(=老人斑)です。もの忘れが出現してくるのは、アミロイドの沈着が起き出してからずっとずっと先のことです。ワクチン療法はアミロイドの沈着を抑える治療です。この治療方法は、国立長寿医療センターの田平武先生らが開発に携わってきたもので、アルツハイマー病の根治療法として最も期待されている治療法の一つです。今後ますます早期診断が鍵を握る時代となってきそうです。 

(平成19年5月18日号 三重タイムズ第1023号・日々想々)

 

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