アルツハイマー病治療の展望(日本神経学会・市民公開講座 in アスト津 講師:田平 武先生)

 

 今年度中に米国で第1相臨床試験開始か?!


 三重タイムズ・中日新聞などで市民公開講座がアナウンスされており、しかも講師の先生が、アルツハイマー病ワクチン療法の第一人者である田平先生と言うことで、私も事前参加申し込みをして(すぐに申し込んだのに定員200人の74番札でした)、講演会を聴きに行きました。

 会場の入り口でたまたま司会の葛原教授と会ってしまい、「先日の講演会ではどうも」とご挨拶しておきました。

 市民講座ですから、基礎的な話も多かったのですが、核心の「ワクチン療法」に関しては、かなり専門的なお話をされておりました。

 抜粋してご紹介したいと思います。

1)「生理的なもの忘れ」と「病的なもの忘れ」の違い

 「生理的なもの忘れ」とは、例えば、2階に物を取りに行ったが、何を取りに来たか忘れ、何だったかな・・と考えるようなこと。

 「病的なもの忘れ」とは、2階に物を取りに行ったが、物を取りに行ったことさえ忘れて、別のことをしだすようなもの忘れ。

2)認知症の元々の語源は、明治時代にDementiaを訳すときに、ちきょう(「ち」はやまいだれに疑、「きょう」は狂)と訳され、それが大正時代になって、ちほう(「ち」はやまいだれに疑、「ほう」は呆)となった。

3)アルツハイマー病は、家族が最初に気づくと言われているが、意外と、本人が最初にそれに気づいているものです。

 佐藤早苗さんが書いた著書「アルツハイマー病に克つ」(新潮社、2000年発行)には、画家でもあった著者がそれまでとは違った「変な絵」を描いたときに、家族が、本人の感情の変化に気づいてやっていれば・・というようなことが書かれている興味深い作品ですと紹介されていました。

4)経口ワクチン:ポリオの生ワクチンのようなイメージで考えてください。

5)経口ワクチンは、日本の企業などで作成してくれるところを随分と探したのですが手を挙げてくれるところがなく、米国の大学で作ってもらうことになりました。

 治験が成功すれば、あと数年位で誰でも使えるようになる可能性があります。もちろん「治験」の参加者は、一足早く使えるわけですが・・。

6)予防に関しては、「運動」と「積極的な生活をした」人が最もアルツハイマー病になりにくかったというデータが出ています。

 「学習」に関しては、期待したほどの効果はありませんでした。ですから、よく運動しよく遊ぶ方がアルツハイマー病になりにくいわけですね。

(平成19年5月19日 アスト津 PM2時〜5時)

 

私の感想

 ご存じのように田平 武先生(国立長寿医療センター研究所)は、アルツハイマー病のワクチン療法の第一人者です。

 こんな機会は滅多にありませんので、私も、近いところでしたし聴きに行きました。

 聴きに行った最大の理由は、患者さん本人&ご家族から、「どうすれば臨床試験に参加できるのか?」という質問が多く寄せられておりその返答に困っていましたので、最新の現状を、直接ご本人にお伺いしたかったからです。

 と言うことで、早めに出かけてマイクに近い席で、司会者から見やすい位置に座り、司会の葛原教授が、「どなたかご質問は?」と言われた際に真っ先に手を挙げて質問して、情報を聞き出すことができました。

 以下に、質疑応答内容をご紹介致します。

私の質問1:

 病院の勤務医です。もの忘れ外来なども行っています。市民講座ですのに少し専門的な質問で申し訳ないのですが教えてください。

 3月29日の朝日新聞1面の記事は大変影響が大きく、私が診療している初期アルツハイマー病患者さん&ご家族から、「どうしたら臨床試験に参加できるのか?」という切実な質問をよく受けます。

 先程の話を聴いておりますと、ワクチンは米国の大学で作成してもらうと言うことですから、日本では臨床試験には参加できないと言うことでしょうか?

田平先生の回答:

 FDAの承認がおりれば、今年度中に、米国で、第1相臨床試験が開始される予定です。第2相臨床試験は、第1相臨床試験が問題なければ、全世界で行われます。日本でも実施できるよう私(=田平先生)も努力します。

私の質問2:

 くどく質問して申し訳ないのですが、治験は、おそらく、アルツハイマー病のごく初期とされる軽度認知障害の患者さんでしかも「進行性」が確認されている方が対象となるのでしょうが、その第2相臨床試験に参加するためには、今から、国立長寿医療センター病院の「もの忘れ外来」などに受診(紹介)しておくと、治験にエントリーできる可能性は高くなりそうですか?

田平先生の回答:

 そうですね。そういったことになるかな・・。

 5月18日の三重タイムズ「日々想々」に掲載された、私の「寄稿記事」も参照下さいね。

 

治験に関しての豆知識:

 治験とは、新薬の製造承認を得るための臨床試験で、第一相試験(第1フェーズ)から最終の第三相試験まであります。

 簡単に述べると、第一相試験は少数の健康な人を対象に、主に安全性をチェックするものです。第二相試験は、少数の患者で効き目の目安をつけるものです。第三相は従来の薬より優れているかどうかを調べる最終的な試験です。

 この第三相と第二相の多くで必要なのが、厳密な手続きの比較試験です。したがって患者さんは実薬を使うグループと、対照となる薬を使うグループに分かれます。

 対照となる薬は理想的には偽薬(プラシーボ)ですが、既存の薬を使う場合もあります。医師が自信ありげに偽薬を薬と言って渡せば、患者さんの三割程度は症状が軽快する(プラシーボ効果)と言われているため、偽薬を対照としての検討が望ましいわけです。

 更に効果や副作用の判定にひいき目が入らないようにするため、実薬が使われたのか、対照となる薬が使われたのかを患者にも医師にも分からないように目隠しする手法(二重目隠し法=二重盲検試験)で検討は行われます。

 

アルツハイマー病の最初のワクチン療法(AN−1792)は、この第2相臨床試験で「中止」になった経緯でしたね。

 AN−1792は、筋注するタイプであった。第1相試験は英国と米国で行われ,AN−1792ワクチンが1カ月に1回,6カ月間投与されたが,とくに副作用はみられなかった。そこでヨーロッパの数カ国が参加して第2相試験が行われた。しかし,第2相試験に入りワクチンを1〜2回接種したところで,副作用としての髄膜脳炎が実薬群280名中約6%に出現したため,2002年はじめ,この治験は中止になった。

 

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