認知症に対する取り組み:介護の展望

 

 記憶の逆行性喪失!


(冒頭省略)

 

III 認知症高齢者の世界を知る:「認知症をよく理解するための8大法則・1原則」

 認知症の介護において最大の問題は,症状の理解の難しさにある.今言ったことも忘れてしまうひどい物忘れ,家族の顔すら忘れてしまう失認,金銭・物に対するひどい執着,徘徊,失禁など多彩な症状を,介護者は理解できず,振り回されてしまう.

 認知症を理解し上手な対応が可能になるように筆者が工夫したのが,「認知症をよく理解するための8大法則・1原則」である.

 認知症高齢者の特徴を理解し,周囲の者が認知症高齢者の世界を認めて,相手に合わせることが認知症ケアの基本であると考えるので,少し詳しく述べたい.

 

1.第1法則:記憶障害に関する法則

 認知症の最も基本的な症状は記憶障害で,認知症高齢者には例外なく現れる症状である.

認知症高齢者の記憶障害には3つの顕著な特徴があって,「記銘力低下」「全体記憶の障害」「記憶の逆行性喪失」と呼ぶ.

 「記銘力低下」とは,新しいことを覚えたり思い出したりすることが困難になる,つまり,ひどい物忘れが起こることである.認知症高齢者が同じことを何十回も繰り返して介護者をイライラさせるのは,意識的にしているのではなく,そのたびに忘れてしまうからである.

 大きな行為そのものの記憶を失ってしまうことを「全体記憶の障害」と呼ぶ.外出して帰宅した直後に「どこに行ってきたの?」と尋ねても,「どこにも行かなかった.一日中家にいた」と平気な顔をして答えるのも,食事した後すぐ,「まだご飯を食べていない.飢え死にさせる気か」と言って家族を困らせたりするのも,この特徴によく当てはまる例である.

 「記憶の逆行性喪失」とは,蓄積されたこれまでの記憶が,現在から過去にさかのぼって失われていく現象をいう.「その人にとっての現在」は,最後に残った記憶の時点になる.「今から会社へ行く」と言って,背広を着てカバンを持って出掛けようとしたり,年齢を尋ねると「18歳です」と真面目な顔で答えたり,数十年連れ添った配偶者の顔が分からなくなり,息子を見て自分の父親とか叔父と呼んだりするのも,昔の世界に戻ってしまったと考えれば,きわめて自然なものととらえられるであろう.「記憶の逆行性喪失」の特徴を知り,認知症高齢者の世界がどのようなものであるかを考えられるようになると,介護はむしろ楽しくなってくる.

 

2.第2法則:症状の出現強度に関する法則

 認知症の症状が,いつも世話してくれている最も身近な介護者に対してひどく出て,時々会う人,目上の人には軽く出ることをいう.この特徴が理解されないことから,介護者と周囲の者(同居している家族であっても)との間に認知症の状態への理解に深刻なギャップが生じて,介護者が孤立する.

 

3.第3法則:自己有利の法則

 自分にとって不利なことは一切認めないで,認知症があるとは思えないほど,素早く言い返してくることをいう.しかし,言い訳の内容には明らかな誤りや矛盾が含まれるため,「都合の良いことばかり言うずるい人」「平気で嘘を言う人」「やる気がない人」など,認知症高齢者を低い人格の持ち主と考えて,介護意欲を低下させてしまう家族は少なくない.認知症高齢者では知的機能が低下して相手の気持ちが理解できず,また嘘とばれてしまうという判断もできないため,平気で言ってしまうのである.

(中略)

 

5.第5法則:感情残像の法則

 言ったり,聞いたり,行動したことはすぐ忘れるが(「記銘力低下」の特徴),感情の世界はしっかり残っていて,瞬間的に目に入った光が消えたあとでも残像として残るように,認知症高齢者がそのとき抱いた感情が相当時間続くことをいう.

 家族が一生懸命になって説明したり教え込んでも,その内容をすぐに忘れてしまって効果がないばかりか,家族をうるさい人,嫌なことを言う人,恐い人ととらえるので,介護がかえって大変になることは認知症高齢者の介護では日常的である.

 

6.第6法則:こだわりの法則

 「あるひとつのことに集中すると,そこから抜け出せない.周囲が説明したり説得したり否定したりすればするほど,逆にこだわり続ける」という特徴がその内容である.

(中略)

 こだわりの原因が分かればその原因を取り去るようにする,そのままにしておいても差し支えなければそのまま認める,第三者に入ってもらい,こだわりを和らげる,別な場面への展開を考える,地域の協力・理解を得る,一手だけ先手を打つ,認知症高齢者の過去を知る,長期間は続かないと割り切るなどの方法が認知症高齢者のこだわりに対応する基本的なやり方である.

 

8.第8法則:衰弱の進行に関する法則

 認知症高齢者の老化の速度は非常に速く,認知症でない高齢者の約3倍のスピードで進行するというものである.

 認知症高齢者グループと正常高齢者グループのそれぞれ1年ごとの死亡率を5年間追跡した調査結果(長谷川和夫・前聖マリアンナ医科大学理事長らの調査)では,認知症高齢者グループの4年後の死亡率は83・2%で,正常高齢者グループの28・4%と比べると約3倍になっていた.

(以下省略)

(川崎幸クリニック 杉山孝博)

(平成18年9月号 日本医師会雑誌第135巻・第6号 P1297〜1301)

 

私の感想

 特徴的な症状がとっても分かりやすく説明されていました。

 著作権の関係で全法則は紹介できませんので、杉山孝博先生の著書を読まれたり講演を聴かれたりして下さい。

 

ご意見はこちらまで

ホームへ戻る