治療法の現状と新薬開発状況

 

 Alzhemedとして第3相試験まで行われたが、有効性は確認できなかった!

 Bapineuzumabは第2相試験の結果が2008年7月に発表されたが、ADの進行を抑えていなかった!

 おそらく、能動免疫ワクチンによる発症予防が最も期待でき、その実用化はあと5〜10年後であると予想される!


老人斑アミロイドあるいはアミロイドβ蛋白(Aβ)に対する治療

 アルツハイマー病の本体がアミロイド蓄積にあるとすれば、その構成成分であるAβの生成・凝集を抑えることは最も重要と言える。

 

1)Aβ切り光し阻害剤、調整剤

 Aβは、アミロイド前駆体蛋白(APP)からβ-セクレターゼとγ-セクレターゼと呼ばれる二つの酵素によって切り出される。

 Aβの切り出し酵素に対する遷移模倣型ペプチド性阻害剤の治験が行われている。

 Aβ42特異的阻害活性を有し、Notch-1のプロセッシングに影響を及ぼさないものとして非ステロイド性消炎剤の一部が知られている。これらはγ-セクレターゼ調整剤と呼ばれており、スリンダク、イブプロフェンなどがある。フルルビプロフェンは第3相試験まで行われたが、有効性は確認されなかった。

 

2)ローセクレターゼ促進剤

 α-セクレターゼは、アミロイド前駆体蛋白をAβの中程で切断し分泌型APPを産生するので、この切断を促進することでAβ産生を抑えることができる。エストロゲンにはα-セクレターゼ活性化作用があるとの報告がある。

 

3)Aβの分解促進剤

 Aβペプチドの分解酵素ネプリライシンの活性を上げる方法として、ソマトスタチンを投与する方法が考案されている。加齢によりネプリライシンの活性が落ちると、AβがジペプチジルペプチダーゼによりN末の2個のアミノ酸が切断され、3位のグルタミン酸がグルタミルシクラーゼによりピロ化され凝集性の高いAβとなるので、グルタミルシクラーゼ阻害剤の開発も考えられている。

 

4)Aβ凝集阻害剤

 Aβが凝集しアミロイド線維化するためには種(シード)の形成が必要である。この種はGM1ガングリオシドとAβが結合したものからなり、これを特異的に認識する抗体を脳に送り込むとAβの凝集が阻害された。

 Aβ凝集を阻害する小分子物質としてコンゴーレッドとその誘導体がよく知られている。しかし、その凝集を阻害するためには小分子であるが故に沢山の分子を必要とする。そこで、GestwickiらはAβに結合するコンゴーレッドとシャペロン分子FK-506結合蛋白(FKBP)を結合させ、コンゴーレッドに結合したAβをもう一方のリガンドによりFKBPに結合させる方法を考案した。

 Aβがアミロイド化する時、ヘパラン硫酸プロテオグリカン等のプロテオグリカンの関与がある。プロテオグリカンのAβ結合部位を阻害する小分子物質はアミロイド線維化を阻害する。この物質はAlzhemedとして第3相試験まで行われたが、有効性は確認できなかった。

 オーストラリアのMastersらはAβ凝集に金属が関与することに注目し、鉄や鉛のキレート剤であるキノホルムが動物で老人斑を減少させることを発見した。筆者はキノホルムがSMON(スモン)という薬害を引き起こしたことから『Science』誌に警告を掲載した。その後毒性のない形に変えたものの治験が行われており、今のところSMON様症状を呈した人はいないという。

 

5)免疫療法(ワクチン)

i)AN-1792ワクチン

 ワイス社は、合成Aβ1-42とアジュバントQS21の混合物よりなる筋注ワクチンAN-1792の治験を行ったが、6%に副作用として自己免疫性と思われる髄膜脳炎が起こったためその治験は中止された。AN-1792ワクチンを接種した症例の剖検脳はワクチンにより老人斑が消え得ることを示した。最近AN-1792ワクチン接種6年後の結果が報告されたが、老人斑がほとんど消失した症例でも症状は進行し、重症ADとなったことが分かった。したがってAN-1792ワクチンは発病後の接種では進行を止めることができないことが分かり、予防投与が重要であると考えられている。

ii)抗体療法

 米国エラン社ほか数社はヒト型Aβモノクローナル抗体の治験に入っている。抗体による治療は、脳炎を起こす可能性は極めて低く、何かあった時に速やかに除去できる利点があるが、高価であり、繰り返し静脈注射する必要があるので、患者負担が大きい。また、中和抗体ができる可能性があること、血管炎や脳出血の危険があること、予防投与には不向きであることなどが欠点となっている。同社のBapineuzumabは第2相試験の結果が2008年7月に発表されたが、ADの進行を抑えていなかった。

iii)DNAワクチン

 東京都神経科学総合研究所の松本らはプラスミドに入れたAβ1-42cDNAを繰り返し筋注するワクチンを開発し、マウスで有効性を示した。

iv)経口・経鼻ワクチン

 筆者らはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにAβ1-43cDNAを組み換えた経口ワクチンを開発し、マウスで有効性を示した。ワクチン接種を受けたマウスはAβオリゴマーも減少し、学習機能の改善が見られた。また、老齢サルでも有効性、安全性が示された。この他、センダイウイルス(SeV)ベクターにAβ1-43を組み換えた経鼻ワクチンは、マウスで有効であった。これらのワクチンは粘膜免疫を利用するので脳炎は起こりにくく、投与法が簡単で投与回数も少なく、予防投与に向いている。WeinerらはアジュバントとAβペプチドよりなる経鼻ワクチンの有効性をマウスで示した。この方法は脳にT細胞の浸潤を伴う欠点がある。これを補うために彼らはアジュバントとCopolymer1(Cop-1)よりなるワクチンを開発し、その有効性をマウスで示すとともに、脳の炎症が起こらないことを示した。

v)Cop-1ワクチン

 Cop-1はグルタミン酸、リジン、アラニン、チロシンをランダムにポリマー化したもので、多発性硬化症の治療に用いられている。イスラエルのSchwartzらはCop-1とアジュバントの筋肉注射で老人斑が減少することをマウスで示した。しかし、多発性硬化症ではCop-1を毎日注射する必要があり、Aβに対する特異性がないので限界があろう。

 以上、アルツハイマー病の治療薬開発の現状を述べた。おそらく、能動免疫ワクチンによる発症予防が最も期待でき、その実用化はあと5〜10年後であると予想される。

(Medical ASAHI 2009 February 23 P21〜23 順天堂大学・田平 武)

 

私の感想

 田平先生、国立長寿医療センターから、順天堂大学の「寄付講座認知症診断・予防・治療学講座」というところに移動されていたんですね。知りませんでした。

 なかなか難解な文章が並びますので、私にも詳細は分かりかねますが、印象に強く残った部分としては、『Alzhemedとして第3相試験まで行われたが、有効性は確認できなかった』&『Bapineuzumabは第2相試験の結果が2008年7月に発表されたが、ADの進行を抑えていなかった。』&『おそらく、能動免疫ワクチンによる発症予防が最も期待でき、その実用化はあと5〜10年後であると予想される。』の3か所でした。

 Bapineuzumabは第3相試験に進んでいると聞いておりますので、ちょっと不思議な感じがします。何故、進行を抑えていなかったのに第3相に進めたんでしょうか・・。

 Alzhemedに関しては、NHKで放映されたときには、かなり期待感を持たせる内容でしたので、大きなインパクトを受け期待していたのですが・・。

 能動免疫ワクチン(例:AN-1792ワクチンなど)療法が、今のところ近未来的に最も期待されている治療のようですが、5〜10年後とは・・! なかなか難しい状況のようですね。

 

ホームへ戻る