アルツハイマー病ではない「老人性のもの忘れ」に対しては、生活習慣の改善は有効な治療!
人口の高齢化とともに、痴呆症は増加の一途で、65歳以上の人の6パーセント、85歳以上では4人に1人が痴呆症という状況です。痴呆症は、アルツハイマー病と、脳梗塞(こうそく)など脳卒中が原因の脳血管性痴呆に大別されます。この両者で痴呆症全体の約9割を占めます。
痴呆症全体の半数とも、一説では三分の二以上ともいわれるアルツハイマー病は、原因不明で決め手となる治療法はまだ見つかっていません。国内で唯一のアルツハイマー病治療薬であるドネペジル(商品名:アリセプト)の治療成績では、「軽度改善」を含めると約半数が改善しています。しかしその効果は、進行を9か月程度遅らせることで、進行を完全に止めるものではありません。
「治る可能性がある」と報道されたり、「不治の病である」と報道されたりして、頭が混乱している方も多いのではないでしょうか。なぜそのように二極性の報道となるのか、今回はお話し致します。
アルツハイマー病には、若年発症(64歳以下)のものと高齢発症(65歳以上)のものがあります。若年発症のタイプは遺伝的な要因が強く、進行も早いのが一般的です。高齢発症タイプは、アポリポ蛋白E4という危険因子と、アルミニウムなどの環境因子が大きく関係していると考えられています。
厳密に分類すると、若年発症タイプを「アルツハイマー病」と言い、高齢発症タイプを「老年痴呆(=アルツハイマー型痴呆)」と呼びますが、最近は広く両者を含めてアルツハイマー病と呼ぶようになってきています。
痴呆(俗称:ぼけ)は、「知的機能の障害により、日常生活や社会生活が営めなくなった状態」と定義されます。食事をしたこと自体を忘れて「嫁がご飯を食べさせてくれない」と言ったり、自分でしまい込んだのを忘れて「お金をとられた」と騒いだりするため、家族や近隣の人々とのトラブルに発展することも多いのです。
痴呆と混同されやすいものに、加齢による「良性老人性もの忘れ」がありますが、こちらは「なかなか覚えられない」とか、「なかなか思い起こせない」といったもので、知能の障害は認められません。痴呆では、記憶力の低下に加えて、計算力、判断力といった知能障害が起こるため、日常生活に支障をきたしてきます。生活習慣の改善などで予防可能であるのは、この老化に伴う「良性老人性もの忘れ」です。
しかし、アルツハイマー病の初期症状ももの忘れです。したがって、もの忘れがひどくなると、本人も周囲も「痴呆」ではないかと心配になるのです。単なるもの忘れだけでは痴呆症とは言いませんが、それが「良性老人性もの忘れ」なのか、アルツハイマー病の初期症状なのかの見極めが必要になってきます。そこで登場してきたのが「もの忘れドック」、「もの忘れ外来」などの試みなのです。倉本内科病院では、「もの忘れドック」を実施中です(予約先:059-227-6712)。もの忘れドックでは、診断の精度を上げるためにアルツハイマー病の危険因子(アポリポ蛋白E4)も調べています。しかし危険因子の存在を知っても現状では根治治療はできませんので、安易に危険因子だけを調べることには賛同しかねます。
話を診断面に戻しますが、もの忘れがアルツハイマー病初期のものなのか、年齢相応のもの忘れなのかの判断は実際には難しケースも多く、その境界型の概念(軽症認知障害:MCI)も提唱されてきました。
MCIと診断された患者を追跡すると、1年でその12%、4年ではおよそ半分がアルツハイマー病に進行したと報告されています。しかし、MCIのままでとどまるか、アルツハイマー病に発展するのかの予測は、いかなる専門医でも実は困難なのです。地震の予知が困難なのと似ています。
浜松医療センターの調査では、早期の痴呆症患者さんの90%は、「廃用性痴呆」で、アルツハイマー病はわずか1.1%しかなかったと報告しています(97年6月9日付朝日新聞)。そして、廃用性痴呆の方には脳の機能訓練が非常に有効であったと報告しています。
すなわち、脳の機能訓練でもあるデイケアの効果に関しては、アルツハイマー病の進行抑制という効能は確認されていないのです。あくまでもデイケアは介護という位置づけなのです。詳細は下記サイトを参照下さい。
http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/ALZday-care.html
浜松医療センターのデータのように、アルツハイマー病ではない老人性のもの忘れに対しては、生活習慣の改善は有効な治療手段となります。調査の対象がアルツハイマー病かそうでないのかによって検討結果は全く異なってきますので、それが二極性の報道となってしまう主原因なのです。
ぼけ予防には、編み物などの手仕事がいいとか、青魚がいいとかいろんな通説があります。でもその通説が本当なのかどうかは、実は検証されていませんでした。しかし今年になって、ぼけ予防の通説を検証する動きが出てきました。
厚生労働省の研究班(主任研究者=朝田隆・筑波大臨床医学系教授)が、全国の高齢者1万人を対象に調査相手を抽出し、通説どおりの生活をしてもらうなどして、その効果を調べる初の試みです。65歳以上のMCIの方が調査の対象です(02年1月24日付読売新聞)。
健康ブームに乗って多くの健康情報が氾濫しておりますが、振り回されることなく正確な知識を身につけて頂きたいと願っております。その手段の一つとして、インターネット医療相談は有用な情報を提供してくれますので、後日その詳細も紹介したいと思います。
私の感想
アルツハイマー病に対するデイケアの効果に関しては、「進行抑制」という面では一般的には否定されています。あくまでもデイケアは介護の手助け(介護者が目を離せる時間を作るなど)という位置づけです。
ただし現実には、デイケアで表情が大変良くなる人がいることは経験上は知っています。
参考文献の抄録内容(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/ALZday-care.html)を下記に記載致します。
【抄録】
アルツハイマー型痴呆患者306名を、アンケート郵送法により1年ごとに最長3年間追跡調査した。施設入所あるいは死亡をエンドポイントとした。l年以上追跡できたのは209名で,このうちエンドポイントを迎えたのは54名であった。Coxの比例ハザードモデルの結果,年齢,性別,痴呆の重症度,主介護者の同居状態,介護介助者の存在,および他の在宅介護支援の利用状況を統制した後にもデイケアの利用はアルツハイマー型痴呆患者の施設入所などの危険率を有意に減少させることが示された。今回の結果は,介護者のデイケア利用の必要性とその意義の認識を深める必要があることを示すとともに,痴呆対策の保健福祉施策の策定に有用な示唆となると考えられる。
【考察 】欧米ではデイケアの利用は痴呆患者の施設入所を遅らせることが繰り返し報告されている。今回の我々の結果から本邦においてもデイケアの利用は,年齢,性別,痴呆の重症度,主介護者の同居状態,介護介助者の有無および他の在宅介護支援の利用状況を統制した後にも,アルツハイマ一型痴呆患者の施設入所などの危険率を有意に減少させることが示された。この理由としては患者自身の認知機能や行動異常,精神症状を改善させることによるとも考えられるが,むしろ介護者の負担を減少させることによるとする考えが有力である。Panellaらは,デイケアの利用は施設への入所を遅らせるが,知的機能の進行速度を変えなかったことを報告しているし,Wimoらは,55例のデイケア利用痴呆忠者と44例の非利用痴呆患者を1年間迫跡し,ディケア利用群は非利用群に比し施設入所が有意に少なかったが,認知機能,日常生活活動,行動異常では有意な差がなかったことを報告し,施設入所の減少は介護者の負担を減少させることによると考察している。
(兵庫県立高齢者脳機能研究センター臨床研究科 博野信次)