不活発な生活を避ける!?
アルミニウムは?
コリンエステラーゼ阻害薬のBAY a9826(メトリフォネート)は有機リン化合物であり,52年以降,殺虫剤や住血吸虫症の治療薬として数百万人の患者に投与されてきた。また,TAK147は高い中枢選択性を持ち,現在わが国で治験が実施されている。NIK247は本来ロシアで作られた薬剤で,タクリンと類似の構造を持つ。最近治験が終了しており,遠からずその結果が明らかになると思われる。なお,huperzineAは,この系統の変わり種で,漢方薬「千層塔」から見つかったアルカロイド化合物である。中国では既に10万人以上に投与されたといわれる。
わが国で現在,治験が行われている薬剤として,FK960とSUN Y 7017が挙げられる。前者は脳代謝改善薬に属し,直接的な一次作用点は不明だが,海馬が一つの作用部位と考えられている。また後者は,ドイツで開発された薬剤で,脳内の興奮性神経伝達物質,グルタミン酸の一つの受容体であるNMDA受容体に拮抗作用があり,既にラトビアなどで流通している。
ほかに従来からある薬剤でも,実際にアルツハイマー病に使われ,医学的な検討が行われているものが幾つかある。そのうち,ビタミンEや健康食品として位置付けられる銀杏葉エキスについては,米国での治験で,わずかではあるが有意な効果が示されている。なお欧米では、ドネペジルに銀杏葉エキスとビタミンEの併用療法を推奨する臨床家が少なくない。
(国立精神・神経センター武蔵病院リハビリテーション部長 朝田 隆)
アルツハイマー病の予防
どのようなアルミ製品が危険か
まず第一に,アルミニウムには神経毒性をはじめ様々な細胞毒性があることは研究者の常識である。またアルミニウムは鉄などと異なり,生体に全く必要ない金属である。従って,アルツハイマー病との関係の有無を問わず,アルミニウムの摂取の減少が好ましいことは88年に開かれた「第1回アルミニウムと健康・国際会議」でも専門家によって勧められている。辛いなことに日本では水道水中のアルミ含量は疫学データのある欧州諸国よりはるかに低い。比較的簡単にできるのは,多量のアルミ化合物が水に溶け出す可能性のあるアルミ鍋などの調理器具や食品の使用をとりやめることである。
アルミ鍋,アルミ箔などのアルミ製品の最大の欠点は,酸やアルカリに弱い性質である。トマトなどの野菜をアルミ鍋で煮ただけで酸性になり,それ以上だとアルツハイマー病の発病に相関が出る飲料水中のアルミ濃度(1リットルあたり0.1mg)に比べて,条件にもよるが,10倍から数百倍のアルミニウムが溶け出るといった実験データは数多くある。アルミ鍋の酸化アルミニウムの皮膜は,タワシなどでこすると簡単にはげてしまうのでアルミの溶出は防止できない。業界団体によるアルミ鍋の使用注意書きに「酸やアルカリのものを煮ない,底を強くこすらない,一昼夜以上,食品を入れておかない」と書かれているのは,「アルミは安全」と主張している団体自体がアルミニウムの腐食溶出を認めていることの現れだろう。
さて,数十年前から私たちの口に入るようになった,このような水に溶けたアルミニウムは,太古の昔からある,上の中やほこりに含まれている天然の酸化アルミニウムやケイ酸アルミニウムがほとんど体内に吸収されないのに対し,はるかに体内に吸収されやすい。血液中のアルミニウムのうち,80%は細胞に鉄を運ぶトランスフェリンと結合している。アルミニウムと結合したトランスフェリンは血液脳関門で区別されず,微量ながら脳の中に取り込まれていく。ピック病やAD患者の脳脊髄液では正常に比べてアルミニウム濃度が数倍高く,しかも正常脳脊髄液でも血中濃度よりも高いという報告もある。脳内に侵入したアルミは排出されにくいらしい。こうして年をとるに従いアルミニウムが脳の中に蓄積されていく。
ただし,すべてのアルミ化合物が危ないわけではないようだ。制酸剤などに使われているゲル状の水酸化アルミニウムは消化器系から取り込まれにくく,疫学調査でも痴呆とは相関はなかったとされている。食品中のアルミニウムも、お茶など天然に元々含まれている化合物の場合、体内に吸収されにくいというデータがある。
不活発な生活を避ける
人体の多くの器官は,その使用度によって機能の維持のされ方が違う。例えば,入院してベッドに寝たきりになると,脚の筋肉が著しく衰える。「廃用性退行」である。脳の神経細胞やシナプスでも同じようなことが起こっていると考えられている。確かに,高齢の人が,骨折など別の病気で入院した途端,急に痴呆が始まった例も多く知られている。転居や入院のように,急激な環境や生活の変化も痴呆を誘発するので注意が必要である。脳が活動し,神経細胞がシナプスを介してほかの神経細胞に興奮を伝えると,その見返りに,興奮させられた細胞が,細胞の生存に必要な蛋白質(生存因子)を分泌するといわれている。その生存因子が,元の興奮を伝えた神経細胞の生存を保証するというメカニズムである。これを「活動依存性」の生存・機能維持という。このため,頻繁に活動する神経細胞は活力に満ち,活動していない神経細胞は死にやすくなる。脳の中の神経回路や機能を維持するには,常に活動していることが必要となる。不活発な生活については,「新聞を読むか」などの指標を使って不十分ながらも調査が行われ,「相関あり」とされている。アルツハイマー病の場合,予防法となる手段が少ないという事情もあり,この「不活発な生活を避ける」は,予防法として挙げてよいと考えられる。脳の中の神経細胞は複雑に結びついて活動しているので,必ずしも「頭を使う」活動だけでなく,運動など「体を使う」活動も,脳全体の機能維持には働いている可能性がある。
予防だけでなく,この活動依存性の機能の維持や修復によって,アルツハイマー病患者の神経細胞の死やシナプスの脱落に対抗しようという目的で,治療や症状の進行を抑えるためのリハビリテーションが試みられている。
(都神経科学総合研究所参事研究員 黒田洋一郎)
新しい臨床治験薬としては、アリセプト(ドネペジル)を超えるものの登場は、まだまだ先のことのようですね。
「酸やアルカリのものを煮ない,底を強くこすらない,一昼夜以上,食品を入れておかない」という使用注意書きがアルミ鍋にあったことは私も知りませんでした。
アルツハイマー病の場合,予防法となる手段が少ないという事情もあり,この「不活発な生活を避ける」は,予防法として挙げてよいと考えられる・・・という部分はアルツハイマー病に関わる研究者共通の悩みですね。新聞・テレビ・健康雑誌には、多くの「ボケ予防」が紹介されておりますが、現実には「決め手」は存在しません。そんな中で多少なりとも有用かもしれないからやっておいてもまあ良いだろうというのが「脳のリハビリ」の現状のように思いますね。
黒田先生は文章の中で、アルツハイマー病の主な危険因子(年齢、性別=女性、アルミニウム=どのような化合物かは未定、タバコ=逆の疫学データもあり、低い教育歴(女性のみ)、不活発な生活、近親者=遺伝因子と同居の際の環境因子、アポリポ蛋白Eなど遺伝子背景)のうち避けることができるものは、アルミニウム、タバコ、不活発な生活(「低い教育歴」は避けれるかどうか「?」と黒田先生は位置づけています)で、これがアルツハイマー病の具体的な「予防法」となるが、まだどのようなアルミニウム化合物が危険か、判明していないのが現状であると述べています。