「もの忘れドック」始動!
六十五歳以上の人の6パーセント、八十五歳以上では4人に1人という痴呆(ちほう)症。その半数とも、一説では三分の二以上ともいわれるアルツハイマー病は、原因不明で決め手となる治療法もまだ見つかっていない。しかし、その多くが数年から十年かけてじわじわと進行するところから、脳の細胞が壊れ始めた早期に診断がつけば、生活改善や服薬などで進行を遅らせることができるかもしれないと言われている。
アルツハイマー病は、一九〇六年にドイツの精神科医アルツハイマー氏が新しい病気として発表したものである。患者は五十一歳の女性で、物忘れがひどく、場所や時間も分からず、異常な行動が目立ち、幻覚もあり、発症してから4年6か月で死亡している。
その脳を解剖すると、強く萎縮(いしゅく)し、しみのような斑点が広がり、神経細胞がもつれて無数の小さな玉のようになっていた。この「脳の萎縮」、「老人斑」、「神経原線維変化」の三つの特徴を併せもつ痴呆をアルツハイマー病と呼ぶようになった。その後の研究から、まずアミロイドという特殊なタンパク質の沈着によって老人斑ができ始め、その後に神経細胞のもつれが起き、神経細胞が急速に減り始めて痴呆症状が出てくるという。脳が萎縮し始めるのは、痴呆症状が出た後である。
痴呆(俗称:ぼけ)は、「知的機能の障害により、日常生活や社会生活が営めなくなった状態」と定義される。食事をしたこと自体を忘れて「嫁がご飯を食べさせてくれない」と言ったり、自分でしまい込んだのを忘れて「お金をとられた」と騒いだりするため、家族や近隣の人々とのトラブルに発展することも多い。
痴呆と混同されやすいものに、加齢による「良性老人性もの忘れ」があるが、こちらは「なかなか覚えられない」とか、「なかなか思い起こせない」といったもので、知能の障害は認められない。痴呆では、記憶力の低下に加えて、計算力、判断力といった知能障害が起こるため、日常生活に支障をきたす。生活習慣の改善などで予防可能であるのは、この老化に伴う「良性老人性物忘れ」である。具体的には、適度な運動をし日記をつけることから始めて予防を心掛けてください。
しかし、アルツハイマー病の初期症状も健忘(もの忘れ)である。したがって、もの忘れがひどくなると、本人も周囲も「痴呆」ではないかと心配になる。単なるもの忘れだけでは痴呆症とは言わないが、それが「良性老人性物忘れ」なのか、痴呆症の初期症状なのかの見極めが必要になってくる。そこで生まれてきたのが「痴呆予防ドック」、「もの忘れ外来」などの試みである。
米国では、「痴呆症の2割は治る。軽症例ほど治療効果は高く、そのためには早期診断、早期治療が大事だ」と報告されている。ただ、誤解しないでほしいのは、アルツハイマーの2割が治るのでなく、うつ病性仮性痴呆、アルコール性痴呆、水頭症などの治る痴呆症が全体の2割程度あるということである。アルツハイマー病では、進行を遅らせることはできても、根治は現状では不可能である。早期診断とともに、もの忘れを心配する人の不安を解消するのも痴呆症検診の大きな狙いである。
検診では、脳の断層撮影(CTあるいはMRI)、アルツハイマー病の危険因子であるアポリポ蛋白E4を調べる採血検査、神経心理学的検査などを行い総合的に判断する。
倉本内科病院でも、本年一月より「もの忘れドック」を始動している(予約先:059-227-6711)。断層撮影はCTを実施している。
さてアルツハイマー病診断後の治療であるが、九九年十一月に国内初のアルツハイマー病治療薬が承認された。ドネペジル(商品名:アリセプト)という薬である。アリセプト承認時の臨床試験では、軽度ないし中等度のアルツハイマー病で症状が改善したと報告されている。「著明改善」はごくわずかであるが、「軽度改善」を含めると約半数が改善している。ただしその効果は、「進行を9か月程度遅らせる」ことが現状での限界である。
私も九九年から昨年末にかけて62例に投薬加療を行った。約14%において明確な治療効果が認められ、また比較的重度の21例でも4例に治療効果が確認されており副作用も少ないことから、一度は使用して効果が出るかどうか確認するのが望ましいと考えている。
なお、未だ動物実験の段階であるが、マウスを使った実験で、アルツハイマー病にワクチンを投与することで、アルツハイマー病の原因であるアミロイド斑沈着が99%も減少し、進行遅延や発症予防などの効果が確認されている。
私が開設しているホームページ(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/)は、中日新聞の「ホームページ」コーナーで、「痴呆症の社会啓発や医療情報の公開を目指したホームページとして注目される」として以前紹介された。現在までのアクセス数は約30万件に達しており、相談のメールも毎日多数入り、痴呆症への関心の高さが伺える。今後もホームページなど通じて、最新の痴呆症情報を紹介し啓蒙していきたいと考えている。
最近の現状をまとめてみました。参考になれば幸いです。