Aβのワクチンの投与がアミロイド斑の生成を抑制し得たことから,このワクチンをAD患者に試みることが米国で行われつつある!
副作用はどうかなどの問題も多い!
抗痴呆薬開発の試みの現状
抗痴呆薬として現在市販ないし試みられている薬剤の主なものの種頚を表1(省略)に示す。このうちAβワクチンは一般の薬剤とはやや異なるが,この中に入れておく。従来最も多く試みられてきたのは,アセチルコリン(ACh)系賦活薬であるが,このうち実際に効果が認められ市販されているのはAChを分解するアセチルコリンエステラーゼ(AChE)の阻害薬(AChEI)である。
1)ACh系賦活薬
ACh系賦活薬は,いろいろな方面からのアプローチが行われてきた。まずAChの材料となるコリンやアセチル基の供与体が試みられたがあまり効果がなかった。次いで試みられて成功したのがAChEIである。
この種の薬でまず米国やフランスで認可・市販されたのがタクリンであったが,肝機能障害などの副作用が強く,日本では治験されなかった。つぎに承認され市販されたのがドネペジル(アリセプト)である。これはわが国で開発された薬であるが,日本よりも米国での治験の終了が早かったために,欧米で先に承認・市販され,わが国では1999年にやっと市販された。
これについては既に広く紹介されているので要点のみを述べるが,ピペリジン骨格を有する新規化合物であって,ブチルコリンエステラーゼ(BuChE)阻害よりもAChE阻害の選択性が高く,末梢での副作用が少ないこと,作用持続が長く1日1回の投与で済むこと,中枢神経系への移行がよいことなどが大きな特徴である。In vitroでのAChE阻害作用はタクリンに比し15倍であり,マイネルト核破壊ラットを用いた実験結果ではタクリンの約4倍の作用強度とされている。米国における治験では,本薬の5mg/日群,10mg/日群と偽薬群とが二重盲検試験で比較され,実薬群は5mg群,10mg群とも偽薬群に比べて有意に有用であることが証明され(10mg群と5mg群の間では10mg群のほうがややよかったが有意差はなく,5mg群のほうが副作用は少なかった),日本に先駆けて米国で承認・市販された。それに続いて欧米をはじめとする世界各国で市販されるに至った。
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図1抗痴呆薬の型 認知機能を改善するが,その低下の速度を抑制することができないタイプが認知機能改善型であり,認知機能は改善しないが,その低下の速度を抑制するタイプが進行抑制型の抗痴呆薬である。理想的なのは進行を完全に抑制できる薬である。実際には認知機能改善と進行抑制の両機能を少しずつ有する薬(中間型)が現段階の抗痴呆薬である。 (平井俊策:抗痴呆薬の将来.老年精神医学雑誌5:683−688,1994) |
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一方,日本では,第三相試験が5mg/日群と偽薬群による24週間の二重盲検比較試験として行われたが,やはり日本版のADAS(ADAS−J)得点においても(図2=省略),臨床症状の評価(日本版CGIC,CGIC−J)においても,5mg群が偽薬群に比し有意に優れるという結果が得られ,米国に数年遅れて承認・市販された。現在わが国でも約7万人のAD例に使用されているという。
そのほかにもリバスチグミンなどのAChEIがよい成績をおさめているが,まだわが国では承認されていない。
6)キレート薬
アルミニウム原因説に基づいたキレート剤であるデスフェロキサミンによる治療が,ADの進行抑制に有用であったとのMcLachlanらの報告があるが,さらに追試が必要である。ちなみにアルミニウムとADとの関連については,1965年にKlatzoらがアルミニム塩をウサギの脳内に注入して光顕的に神経原線維変化に類似する変化を作成して以来,いろいろと議論されたきた。この方法による神経原線維様変化は電顕的にはpaired helical filament(PHF)からなるヒトのそれとは異なることが明らかにされたが,その後もAD脳ではアルミニウム濃度が高い,老人斑ではアルミニウムがケイ酸塩の形で沈着している,神経原線維変化にもアルミニウム濃度が高いなどの多くの報告がある一方、それらに対する反論もみられ,ADとアルミニウムの関連はまだ灰色といってよいであろう。しかし、やはり何らかの増悪因子として作用している可能性が高いと考えられる。例えばタウ蛋白やβ蛋白がPHFやアミロイドなどの不溶性蛋白を形成する場合に,アルミニウムが関与している可能性などが十分に考えられる。
将来への展望
ADの最も根本的な薬は,やはり本症を特徴づける老人斑や神経原線維変化の形成を予防ないし抑制することができる薬と考えられる。老人斑は、その主成分がAβであり,これはAPPの一部である。APPからβ蛋白を切り出す際には,N末端側を切断するβセクレターゼや,β蛋白をAPPのC末端側で切断するγセクレターゼが働く(図6:省略)が,これら酵素の実態は不明であった。しかし最近、前者としてBACEという酵素のシークエンスに成功し,また後者はプレセニリン1そのものである可能性が高くなった。このためにこれら酵素の阻害薬が検討されている。
また最近ADのモデル動物としてAβのトランスジェニックマウスのみならず、リン酸化タウのトランスジェニツクマウスの作成も可能になったので、このような動物を用いての研究が一層進むものと思われる。Aβのトランスジェニックマウスを用いた実験で,Aβのワクチンの投与がアミロイド斑の生成を抑制し得たことから,このワクチンをAD患者に試みることが米国で行われつつある。ADの成因としてAβカスケード説が有力であり,Aβの生成が抑制できるとすればADの進行を止める可能性があるが、既に形成されたAβの沈着を消失させることができるのか、このルート以外にもタウのリン酸化によって神経原線維変化が形成される可能性があり、またADにおける神経細胞死の機序が不明なので,Aβの沈着の抑制のみで神経細胞死を抑制できるのか,副作用はどうかなどの問題も多い。
(以下省略)
(平井俊策)
私の感想
専門誌の内容ですから一般の方には難解な用語が多いと思いますが、「Aβのワクチンの投与がアミロイド斑の生成を抑制し得たことから,このワクチンをAD患者に試みることが米国で行われつつある」など参考になると思います。
アルツハイマー病のワクチンに関する情報は、皆さん待ちわびていることと思われますので、ご紹介いたしました。まだまだ実験段階であるということをご理解していただければと思います。