告知の意義は?!
(1)告知の後に:アルツハイマー型痴呆患者の家族をどう支えるか
新潟医療福祉大学・今村 徹 先生
告知の目的は病名を告げることではないはずだ。相手のプラスにならなければ告知の意味はない。その点でADには避けては通れない問題がある。アルツハイマー病という言葉のメタファーの力である。「すべての症状がどんどん悪くなっていく」といったイメージを患者本人から取り除くにはどんな方法論があるのか、私にはわからない。わからない以上、私は患者本人には告知をしていない。
まったく同じ問題が、家族への病状説明の際にも生じる。しかしこの場合は、「ADは急速には進行しない」「陽性症状(周辺症状という二次的な印象を与える言葉を私は用いない)は中期にピークになるが、後期には落ち着いていく」といった説明をすることで、うまくいった事例も多い。
メタファーの力をどう打ち破るか。ご家族に対しては有効な方法論があると思う。では患者さんへの告知について適切な方法論を持っているか、という点で我々はまだまだ力不足だと考えている。
(2)痴呆症の告知:積極的立場から
日本社会事業大学・今井幸充 先生
医師は患者さんのadvocate(擁護者)でなければならない。そして痴呆の告知も、インフォームドコンセントの義務として、やはり「ねばならない」と考えてよいのではないか。
今村先生がおっしゃったように、告知とはただ病名を告げるものではない。どういうサポートがあるのか、医療に何ができるのか、福祉に何ができるのかといったことを、きちんと説明しなければならない。ここで「患者さんは理解できないのでは」と思うのは、医療側の驕りのような気がする。確かにすぐに忘れてしまうが、私はまた説明するように努めている。
告知の背景には,治療者に対する患者さんの信頼感が存在しなければいけない。患者さんや家族との間でラポールがとれたとき、誠意をもって病名を伝え、自分の考えを話すことで、患者さん自身のエンパワーメントを視点に入れたケア体制ができると私は信じる。
会場からの質問に対する今井先生の回答:
私自身も告知する時は勇気が必要でためらうこともあります。ただ、そこで私が告知しないことが、患者さんの不利益になるのではないかという疑問を感じる。告知しないことで患者さんに動揺を持たらさないことはよいことかもしれないが、将来的なことを考えれば、そこで伝える勇気が必要ではないだろうか。私は特にMClの方には早期に伝えるようにしている。7〜8年のうちに自分自身がわからなくなってくるので、今何をすべきかを考えてください、といった主旨を、時間をかけてゆっくりと説明している。
(3)痴呆症の告知:慎重な立場から
滋賀県立成人病センター・長濱康弘 先生
痴呆症の告知を考える以上は、患者さんとご家族に対して継続的にサポートを提供できるということが不可欠であろう。またこの大前提が満たされたとしても、患者さんの性格、生活環境、あるいは介護家族の状況やご希望など、多くのことに十分に配慮した上で、告知するか否かを決定すべきである。
告知するにしても、何をどう伝えるかが大切で、病名を出さずに症状や状態を告げるということでも、十分に意味があるのではないかと思う。
一方、告知しないほうが患者さんやご家族のその後のQOLが高く、治療者との関係を良好に保てる可能性があることも事実だろう。告知することで患者さんに重大な衝撃を与える印象があり、実際に一切の介入を拒否された方もいる。やはり言わないという選択肢も捨てきれないのではないか。私は「もの忘れ外来」で4年間、診療をしているが、告知はほとんどできていない。
私の感想
2004年7月号のメディカル朝日・別冊で、「アルツハイマー型痴呆研究会の、第五回学術シンポジウム」の要旨が報告されましたので、「告知」に関する部分をご紹介致しました。
最近の私の、初期アルツハイマー病患者に対する、告知事例をご紹介しましょう。
○○○子さん(72歳、女性):受診前にメールでご家族より「アルツハイマー病なら本人にも言ってもらって構いません」と聞いていたため、初診時(H16年5月)にご本人に「初期です」と告知致しました(HDS−R:24点で、それなりに判断力はある患者様に対する告知例です)。その場ではご本人は「ショックです」と言ってましたので自殺企図でも起こしはしないかと危惧しておりましたが、自宅に帰ったら告知されたことを忘れてケロッとしていたという状況をご家族よりのメールで知りました。
上記のような場合、告知したことの意味・意義はいったいどこにあったのか疑問と言うことになりますね。
上記の告知例を見ても分かりますように、アルツハイマー病の告知は「がんの告知」と違って、本人が正確に「告知」を受け止められるのかどうかということの確認が非常に難しいため、私も告知には消極的な立場であり、現実には、かなり重度で告知しても全く支障がないケースと一部のMCIの方にしか告知しておらず、初期のアルツハイマー病患者さんには告知していないのが現状です。
MCIの方に告知するにしても、MCIの正確な自然経過(予後=アルツハイマー病への移行率)がほぼ100%明らかにならなければ、告知は差し控えた方が良いという考え方も当然正しいと思われます。
今井先生は、もの忘れ外来に通院中のAD患者介護者23名に対するアンケート結果として、もし介護者自身がADになったら告知を望むかどうかという結果として、病名を知りたい(96%)、病名を知りたくない(4%)というデータを提示されております。

23名中告知を希望しなかったのは1名だけのようですが、その理由が知りたいところですね。また、告知希望者22名は、何をするために告知を望むのかという点も知りたいですね。日々の介護でたいへんご苦労されている介護者の方に質問すれば、圧倒的に「告知希望」が多くなるのは当然だと思います。