コリンエステラーゼ阻害薬またはmemantineによる認知症治療は、統計的に有意な結果が得られているものの、臨床的にはわずかな改善が認められるのみ!
認知症患者において、特にQOLが低い患者では、機能低下を遅らせることは必ずしも好ましい目標ではない可能性がある!
認知症の薬物治療に関する新ガイドラインには、臨床医は、有害作用プロファイル、使用しやすさ、および費用に基づいて治療薬を選択すべきであると記されている。
【2008年3月7日】
認知症治療薬については、ある薬剤が他の薬剤より優れていることを示す説得力のあるエビデンスは得られていない。したがって、臨床医は、薬剤の有害作用プロファイル、使用しやすさ、および費用に基づいて治療薬を選択すべきである。
これは米国内科学会(American College of Physicians)(ACP)および米国家庭医師会(American Academy of Family Physicians)(AAFP)が発表した認知症治療に関する新ガイドラインの勧告であり、コリンエステラーゼ阻害薬のドネペジル、galantamine、rivastigmine、tacrine、ならびに米食品医薬品局(FDA)により承認された唯一の認知症治療薬である神経ペプチド修飾薬(neuropeptide-modifying agent)のmemantineの有効性に関するエビデンスのシステマティック・レビューに基づいたものである。
「コリンエステラーゼ阻害薬またはmemantineによる認知症治療は、認知機能の尺度および認知症の総合的評価において、統計的に有意な結果が得られているものの、臨床的にはわずかな改善が認められるのみである」と同レビューの著者らは記している。
同ガイドラインとレビューは『Annals of Internal Medicine』3月4日号に発表されている。
マックマスター大学(カナダ、オンタリオ州、ハミルトン)のParminder Raina, PhDを筆頭とする同レビューでは、認知症の診断を受けた成人に対する治療薬を評価し、クロスオーバーデザインを用いず、修正したJadadスケールの品質スコアが3以上のランダム化比較対照試験59件を対象にした。全試験とも1986年から2006年11月の間に発表されたものである。
同研究者らは、アルツハイマー病(AD)および脳血管障害性認知症の患者の主に認知機能、総合的機能、行動、生活の質(QOL)に関して、5剤の有効性および臨床的に適切な改善を達成する能力について現在得られているエビデンスを解析した。
その他の評価項目には、入院、死亡、有害事象の率が用いられた。
評価した臨床的転帰
ほとんどの試験では評価尺度のスコアに統計的有意差が報告されているものの、同ガイドラインの著者らは認知症患者、介護者、臨床医にとって最も重要なのは臨床的に重要な改善であると指摘している。
このため、ガイドラインの作成にあたり、ペニンシュラ大学(ペンシルベニア州、フィラデルフィア)のAmir Qaseem, MD, PhD, MHAを筆頭とする委員会は治療レジメンの臨床的に重要な効果も評価している。
臨床試験(ほとんどの症例は試験期間1年未満)で明らかになった改善の多くは統計的に有意であったものの、それらは臨床的に重要でないか、またはその重要性が証明できなかったことを同委員会は明らかにしている。
ドネペジル、galantamine、rivastigmine、memantineについては、総合的評価で改善のエビデンスが得られている。しかし、これらの変化は一般にわずかであり、生活の質への影響に関するエビデンスにはばらつきがあった。
tacrineの試験結果は、肝障害や嘔気、嘔吐、眩暈のエビデンスを含め、特に重篤な有害作用の有無という点で説得力に欠けている。tacrineに関する全中止率は、プラセボ群では0-12%であったのに対して投与群では0-55%であった。
勧告
これらの知見の結果として、ACPおよびAAFPは次のような勧告を行った。
臨床医は、コリンエステラーゼ阻害薬またはmemantineによる治療の試みの開始について、個別評価に基づいて決定すべきである(グレード:弱い勧告、中程度の品質のエビデンス)。
1)同ガイドラインによれば、最新のエビデンスではこれらの薬剤を全ての認知症患者に処方することを支持していない。一部の試験では薬物療法の有用性が明らかになっているものの、平均すれば、そうした有用性は認知機能に関しては臨床的に有意ではなく、総合的評価についてはわずかである。
さらに、認知症患者において、特にQOLが低い患者では、機能低下を遅らせることは必ずしも好ましい目標ではない可能性があると同レビューの著者らは記している。臨床医は認知症の治療を考える際にこれら薬剤の有害作用も考慮に入れ、考えられる有害作用とわずかな有効性、症例によっては有効性がないこととのバランスを取るように同著者らは推奨している。
さらに、最新のエビデンスでは治療の最適期間については何も知見が得られておらず、かつ治療中止を導くエビデンスもないと同著者らは指摘している。
2)臨床医は、忍容性、有害作用プロファイル、使用しやすさ、および薬剤の費用に基づいて薬剤を選択するべきである。認知症治療用の各種薬剤については、その有効性を比較できるだけの十分なエビデンスは得られていない(グレード:弱い勧告、品質の低いエビデンス)。
同レビューの著者らによれば、薬剤間で有効性を比較した試験はほとんどないため、他剤と比較してある薬剤の使用を支持する十分なエビデンスはない。したがって、臨床医は、有害事象プロファイル、使用しやすさ、および費用に基づいて治療薬の選択を行うべきである。
しかし、同ガイドラインでは、その重度有害作用プロファイルに照らして、tacrineの使用を支持していないと同著者らは記している。
3)認知症の薬物管理の臨床的有効性について、さらに研究を行うことが急務である。
同著者らは、認知症治療薬を1対1で比較することの必要性のほか、治療法が入院などの評価項目に及ぼす影響の評価、ならびに併用療法の評価の必要性などを強調している。
この研究はACPおよびAAFPの資金援助を受けている。同レビューの著者のうち1名はAAPから謝礼金を受け取っている。また別の著者は米疾病管理予防センター(CDCP)、Novo Nordisk社、Bristol-Myers Squibb社、Robert Wood Johnson Foundation、Boehringer-Ingelheim社、Endo Pharmaceuticals社の援助を受けている。その他の著者らは関連する金銭的関係がないことを開示している。
私の感想
『コリンエステラーゼ阻害薬またはmemantineによる認知症治療は、認知機能の尺度および認知症の総合的評価において、統計的に有意な結果が得られているものの、臨床的にはわずかな改善が認められるのみである』&『認知症患者において、特にQOLが低い患者では、機能低下を遅らせることは必ずしも好ましい目標ではない可能性があると同レビューの著者らは記している』の2か所が、この記事の中核部分ですね。
アリセプトが存在する現状においても、医療機関を受診したら、「アリセプトを服薬しても意味がないと担当医師から言われ処方されませんでした。どうしてでしょうか?」というような質問メールが時折届きますが、上記のような背景があることをご理解頂ければ、その担当医師がまんざら「嘘」をついているわけではなく、むしろ逆に「親切心」からそう言った可能性もある・・ということも考え得るわけです。