「学習療法」300施設に

 

 「脳トレ」川島教授が考案

 認知症改善に効果?


 認知症の進行を抑えることを目的に、簡単な計算や音読を中心にした「学習療法」に取り組む高齢者施設が増え続け、全国で300施設に達しようとしている。考案者は、脳トレーニングのブームを巻き起こした川島隆太・東北大教授。昨年には専門雑誌で効果を発表し、「科学的証拠を示した」と強調する。ただ、専門家の間からは「検証が不十分」との異論も。薬を使わずに認知症を改善するこうした試みは、どこまで期待できるのか。

(田村建二)

 

(冒頭省略)

 学習療法は川島さんらが商標登録している。04年7月に設立された「くもん学習療法センター」が教材やノウハウの普及を担当する。7月末現在、全国37都道府県の介護施設275カ所で採り入れており、さらに増える勢いだ。

 

音読・計算「科学的に証明」

 学習療法は、ただ読み書き計算をするだけではない。個々の能力に応じて、誰でも100点満点が取れるような問題を用意。スタッフは目の前ですぐに採点し、「よくできましたね」などとほめることが求めらる。

 これが認知症を改善するという川島さんらの論文は、老年医学分野で権威のある米国の専門誌「老年学雑誌 シリーズa・生物科学と医科学」に掲載された。「音読と計算は認知症の人の前頭葉機能を改善する」というタイトルだ。

 認知症の代表例であるアルツハイマー病と診断された高齢者32人を二つのグループに分け、片方に学習療法をしてもらった。「その日の日付」や「いまいる揚所」などを聞く検査の成績を比べると、学習しなかった人たちでは半年たつと成績が低下したのに、したグループは変わらなかった。

 さらに、脳の前の方、おでこの裏側あたりにある前頭葉の機能を調べる別の検査の成績はむしろ向上した、という。川島さんらはこの結果を根拠に、学習療法の効果が「科学的に証明された」と主張している。そのお墨付きがあるからこそ、全国で急速に広まったといえる。

 

効果疑問視する声

 評判が高まるにつれ、「どんな認知症の人も治る」といった誤解が広まるのを恐れる声が出ている。そもそも、効果が本当にあるのか疑問視する専門家も少なくない。

 「音読計算しないグループも、スタッフとの交流が同程度あるようにしないと科学的に証明したといえない」「今回の検査だけで認知機能に差が出たと言い切れるのか」 

 実は、川島さんの論文の後半には「成果がトレーニングそのものに由来するのかどうか、我々は区別できなかった」という記述がある。論文のタイトルにある「音読と計算」が本当に効果を発揮したのか、むしろスタッフとの交流に意味があったのか、川島さんにも分からなかったのだ。

 しかし、川島さんは余裕たっぶりだ。「学習療法全体としての効果は十分示したつもり。それ以上の学問的な検証は、専門の方にお任せしたい」

 川島さんの専門は画像機器を使った脳の機能解析で、認知症研究はもともと「本業」ではない。効果がないというなら、ないというデータを本業の人が出せはいい、というわけだ。

 しかし、認知症の専門家たちの中に、正面から異を唱える人はほとんどいない。矢面に立つのを恐れているのか、あるいは認知症の研究は幅広くて手が回らないのか。ともあれ、学問的な論争にはなっていない。

 社会の高齢化に伴い、認知症の患者は増える一方だ。薬は盛んに研究されているが、いまの薬では病気が進んでいくのを完全には止められない。

 薬を使わず、脳に刺激を与えて認知症を予防したり、改善したりしようという試みは「認知リハビリテーション」と呼ばれる。

 例えば「回想法」は、自分の故郷やもう一度行ってみたい場所など、それぞれの懐かしい思い出を語り合ってもらう。音楽を聴いたり演奏したりする「音楽療法」に取り組む施設も増えている。

 ところがどれも抑うつなどを改善する効果が指摘されている程度で、認知症自体を抑える効果は確認されていない。学習療法で本当に改善できるなら、画期的なことだ。

 (中略)

 効果を疑う人たちも、学習療法の実践についてはこう口をそろえる。「何もしないよりは、ずっといい」

(以下省略)

(平成18年8月20日 朝日新聞「総合」・時時刻刻)

 

私の感想

 この話題は、かつてこのサイトでもご紹介致しました(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/AlzOndoku.shtml)。

 「音読計算しないグループも、スタッフとの交流が同程度あるようにしないと科学的に証明したといえない」は正論ですから、是非とも検証して欲しいものですが、32人とかではなくもっと大がかりな検討が求められるでしょうからそんな研究に着手する方が出てくるのか・・。私も「何もしないよりは、ずっといい」と思いますから、苦労して研究して学習療法の効果を科学的に否定することよりも、前向きに「少しでも改善があることを期待して」取り組む方が有用な気がします。 

 認知症のリハビリテーションに関しては、『早期のアルツハイマー病あるいは脳血管性痴呆の記憶障害等に対する認知訓練の効果に関するエビデンスはなく、方法論的な問題を考慮した、よくデザインされたさらなるランダム化比較試験が必要である。(2005年/第42回日本リハビリテーション医学会・教育講演 博野信次)』(リハビリテーション医学 Vol.42 No.9 2005年9月 P637〜642)という記載にも見られるように、大規模に検証されたエビデンスは存在しないと言うことを念頭に置いて「少しでも効果を期待して」取り組むということになるのだと思います。

 

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