アルハイマーに対する関節リウマチ薬エタネルセプトの著効症例
即効!
関節リウマチの分子標的治療薬であるエタネルセプトが,即効性をもってアルツハイマー型認知症(Alzheimer,
s disease;AD)を改善したという症例が報告された.1)
エタネルセプトは完全ヒト型可溶性TNFα/LTαレセブター製剤で,国内では関節リウマチの既存治療で効果不十分な場合に限りその適応が認められている.エタネルセプトの関節リウマチに対する作用機序は,エタネルセプトのヒトTNF可溶性レセプター部分が,過剰に産生されたTNFα及びLTαを,おとりレセプターとして捕捉し,細胞表面のレセプターとの結合を阻害することとされている.
ADの治療薬として国内ではアセチルコリンエステラーゼ阻害薬のドネペジル塩酸塩のみが適応を認められており,その効果は認知症症状の進行抑制である.これに対し,TNFαの過剰産生がADの発症に重要な役割を果たしていることが明らかになってきた.すなわち,AD患者では脳脊髄液や血清中のTNFαが上昇していること,TNFαの産生を促進する遺伝子多型がAD発症のリスクとなること,ベータアミロイドによる記憶メカニズムの障害がTNFαを介して生じることなどが示唆されているが,未だTNFαを標的としAD治療の試みはない.1) 通常,関節リウマチ治療ではエタネルセプト10〜25mgの皮下注射が週2回行われているが,Tobinickらによる症例報告では25mgのエタネルセプトを1回投与した.また,エタネルセプトは血液脳関門を通過しないため,脳に直接作用させるために頚部後方から頚椎突起間へ投与する方法(perispinal投与)が用いられた.1)
AD患者(81歳の元医師)にエタネルセプト25mgを投与したところ,10分後には投与前には答えられなかった施設所在地の州名である「カリフォルニア」と,当時の西暦である「2006年」が返答可能になった.2時間後には,評価をしている担当医師の名前を思い出せるようになり,または曜日や月,場所を理解できるようになったり,60秒間に言える動物の数や頭文字Fで始まる単語の数が増えるなど投与前に比べて多くの点で改善が認められた.全くできなかった単純計算では100−7の計算が可能になったが,58÷2や29+11などの計算は不可能なままであった.
Montreal cognitive assessment(MOCA)による認知機能評価(30点満点)では,その点数が投与前7点から投与後2時間で15点まで上昇した.この評価方法では,テストと再テストの点数差の平均が0.9±2.5点であることから,8点の上昇がいかに顕著な改善かが伺える.その後,この患者はエタネルセプトを週1回投与されたが,2回目の投与直前でも家族及び研究者の質問やテストなどから効果の持続が認められ,患者自身も会話に参加することにわずらわしさがなく,フラストレーションも少なくなっていた.最初の5週はエタネルセプトの週1回投与を継続したが,6週日の投与は省略され7週後に再テストを受けた.すなわち最終投与の14日後,彼のMOCAスコアは14点と改善効果が持続していた.
この症例報告の前に行われた15例のAD患者を対象としたパイロットスタディーにおいては,週1回のエタネルセプト投与が,6か月間にわたり複数の認知機能検査における点数の有意な改善に寄与していた.2) 彼らはこの症例研究の限界として,プラセボを用いた比較試験ではないため,研究者によって評価が偏る可能性を指摘しているが,複数の指標を用いて評価している点や,医師以外に患者家族やその友人らの複数名によって改善が確認されていることも強調している.
さらに,この症例報告に併せてGriffinも実際の投与前後の状況確認のためにTobinickの元を訪れており,自ら観察した患者3例における改善の状況を述べている.3)これらの症例研究を機に,AD治療の新たなアプローチとしてエタネルセプトの治療成績が注目される.またTobinickらによって試みられたperispinal 投与が,難治性脳神経疾患に対する薬剤投法の1つである可能性が示された.
1)Tobinick E. et al., J Neuroinflammation, 5, 2(2008).
2)ToblnlCk E. et al., MedGenMed, 8, 25(2006).
3)Griffin W.S.T., J Neuroinflammation, 5,3(2008)
私の感想
解説は難しいですが、情報だけお知らせしました。
日本国内で実施している施設はないと思います。