安楽死、揺れるEU

 

 同じ日、正反対の二つのケース!

 初期のアルツハイマー病患者が安楽死!


 まったく同じ日のベルギーとフランスでの二つの「死」が波紋を呼んでいる。本人の希望がかなった安楽死と、認められなかった後の自殺。統合が進む欧州でも安楽死への対応は国ごとに異なる。「死ぬ権利のある国」に向かう人の流れも起きている。

(ブリュッセル=井田香奈子)

 

認知症、望み通りの死

●ベルギー

 3月19日のヒューホ・クラウスさんの死は、すぐ世界に伝えられた。78歳。アルツハイマー病と診断され、本人の希望に基づいて安楽死したことがニュースを大きくした。

 ベルギーでは年間400〜500件の安楽死が実施されているが、ノーベル文学賞の有力候補にも名前が挙がった文豪の選択は論議を呼んだ。アルツハイマー病による認知障害が、法律が安楽死を認められる条件とする「昏睡・植物状態」とは異なるうえ、もう一つの条件の「患者がよく考えたうえで望み、その意思を繰り返し表明し、いかなる圧力もない」状態からも、症状が進めば外れると考えられていたからだ。

 今回の例は、安楽死の「適用外」とされてきた認知症患者も、自分で意思を示せる初期のアルツハイマー病患者であれは、選択の道が開かれていることを示した。地元メディアは「尊厳ある死」と肯定的に伝え、カトリック宗教界は強く異議を唱えた。

 リベラル系の政党は、認知障害がある患者や家族の安楽死の希望にも応えられるように、要件を緩和する法案を出す方針を今月21日に表明。ブートマンス議員は「クラウスさんはまだ軽症だったので、意思を示すのが間に合った。進行した人にも安楽死の選択肢を設けるべきだ」と話す。

 だが、ルーバン大学のネース教授は「安楽死はあくまで例外的措置。痛みの軽減を重視する緩和的医療などと同等にとらえられるとすれは危険だ。治療停止や緩和的治療などの選択肢もある。介護する家族や医療費への配慮から、患者に安楽死の選択を迫る心理的圧力を与えかねない」と指摘する。

 ベルギーのアルツハイマー病患者団体は、クラウスさんの選択を「尊重する」と表明する一方、「(英雄視する報道は)患者にとってのほかの選択肢を無視している」と、性急な議論に懸念を示した。

 

許されず、女性自殺

●フランス

 クラウスさんが亡くなった日、仏中部デイジョンでは52歳の女性シャンタル・セビルさんが自宅で世を去った。大量の睡眠薬を服用しての自殺と見られている。

 元学校教師のセビルさんは8年前から顔面が大きく変形し、眼球が飛び出す進行性の悪性腫瘍にかかっていた。失明し、痛み止めも効かなくなったことから、医師の処方した致死薬による「積極的安楽死」を裁判所に求めていた。

 仏では05年、末期がんなどの患者や家族が望む場合、延命だけを目的とした治療を中止できる「消極的安楽死」については合法化された。

 だが、裁判所はセビルさんの訴えを「同情に値するが、彼女の場合、自殺を手助けすることは、法律にも医療倫理にも反する」として棄却。セビルさんが命を絶ったのはその2日後。直前までメディア取材に積極的に応じ、「私の顔を怖がって子どもたちが逃げていくのが悲しい」「尊厳を守りながらこの世を去りたい」などと訴えた。

 医師のクシュネル外相が「法に例外規定を設けるべきだ」と表明。他の政府高官は「特殊事例を理由に法を変えるべきではない」と反論するなど、論議が広がっている。

 

国ごとに異なる対応

 「合法」求め国境越えも

 死生観や宗教観に根ざす側面が大きい安楽死への対応は欧州でも国によって異なる。様々な問題で共通ルールづくりを図る欧州連合(EU)も「統一した方針はない」と各国に判断をゆだねている。

 オランダ、ベルギーともカトリック系政党が政権から離れ、リベラル系の政党が主導権を握っていた02年に安楽死法が成立した。

 カトリック教会の反対を押し切って同性婚を合法化したスペインの中道左派政権は、安楽死には慎重な立場だ。英国などでは医師の団体に反対論が強い。だが、国境の垣根がほとんど消えた欧州では。安楽死や自殺幇助(ほうじょ)が可能な国への人の移動も始まっている。

 セビルさんは生前、安楽死が認められているオランダやベルギーの医師に相談する考えを示していた。その1人は英BBCに「『自国で必要な治療を受けられない揚合、他のEU加盟国で受診できる』というルールを利用して、すでに5人が安楽死の処置を受けに来た」と明かした。

 98年に医師に加えて慈善団体にも致死薬の処方が認められたスイスには、「数百人」(BBC)が自殺の手だてを求めてやってきたという。 

 

 

キーワード:ベルギーの安楽死

 02年9月に安楽死法が施行。18歳以上の患者について、(1)耐え難い苦痛があり、回復の見込みがない(2)よく考えた上で安楽死を望み、その意思を繰り返し表明し、それを強いるいかなる圧力もない−の要件を満たせは、安楽死を施した医師の刑事責任を問わない。医師は国の「安楽死委員会」に報告する義務がある。 

(平成20年5月24日 朝日新聞・国際「世界発2008」)

 

私の感想

 いや〜! 何とも衝撃的なニュースですね!

 日本では、アルツハイマー病患者さんの「尊厳死」すら認められていないのに、初期のアルツハイマー病患者が安楽死!とは!!

 アルツハイマー病初期の段階で、将来必ず悪化する!という予測が100%の信頼性でもって判断(断言)できる検査なんて存在しないのに安楽死の選択とは!

 いくら、「尊厳死容認派」の私でも、ちょっと考えさせられる事例ですね! 

 

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