「軽度認知障害」、発見に家族の目

 

 脳脊髄液の検査で診断!

 少し前の「エピソード記憶」に問題がある場合に要注意!

 進行遅らせる降圧剤も!


 年をとり、もの忘れが多くなると、認知症ではないかと心配になる。主な認知症であるアルツハイマー型には、現段階では根治薬は無い。それでも、早期治療で進行を遅らせることができないかと病院を受診する人も増えているという。そのなかで、まだ認知症ではないが、近い将来に認知症になるリスクが高い状態の「軽度認知障害」が注目され始めている。どう診断され、どんな対応があるのだろうか。

寺崎省子

 

脳脊髄液の検査で診断

 宮城県東松島市に住む40代の女性が母(66)の異変に気付いたのは、家族で松島の花火大会を楽しんだ夜だった。10分余りの間に、母は石巻の花火大会との違いを2度、3度と繰り返した。翌朝も、30分ほどの間に同じ話を繰り返した。

 仙台市で一人暮らしの母を月1度は訪ねていたが、それまでは気付かなかった。最近変わった様子がないか母の友人たちに電話で尋ねて回ると「旅館の部屋が分からなかったことがあったわ」。一緒に旅行に行った人が教えてくれた。

 母を連れて東北大学病院(仙台市)を受診したところ、軽度認知障害(MCI)の状態だった。主治医の荒井啓行教授(老年医学)は「いまは認知症ではないが、近い将来、アルツハイマー病に移行する可能性が高い」と診断した。

 ただ、MCIと診断するのは簡単ではなかった。三つの言葉を覚えるテストは一つしか覚えていなかったが、記憶テストは30点満点中の28点で「正常」の範囲。コンピューター断層撮影(CT)や磁気共鳴断層撮影(MRI)、脳血流を調べる画像検査でも、ほとんど異常はなかった。脳脊髄液検査で異常値が出たのが診断の支えになった。

 アルツハイマー病は、脳にアミロイドβが沈着した老人斑やタウたんぱく質が蓄積した神経原線維変化という病変が長い年月をかけて進む。脳脊髄液検査は一部の大学病院が研究的に行っている段階だが、この検査で脳から分泌されるタウたんぱく質が増えていたりすれは、前兆と考えられる

 MCIは10年前に米国で提唱され、2003年に国際学会で診断基準がまとめられた。「正常でもない、認知症でもない、正常と認知症の中間状態」で(1)以前より認知機能が低下(2)日常生活ははとんど問題なく送ることができる程度だ。

 画像診断は簡単ではなく、早期発見のきっかけになるのは、冒頭の女性のような家族の気付きだ。アルツハイマー病に進行する可能性が高いMCIの症状は、一般常識や古い記憶は大丈夫なのに、昨晩はだれと何を食べたかなど、少し前の「エピソード記憶」に問題がある場合という。

 

進行を遅らせる降圧剤も

 認知症の原因はさまざまで、精神安定剤の副作用や軽いうつ病、脳血管疾患でなることもある。愛媛大学病院の専門外来で1998年〜2002年、池田学・助教授(現熊本大教授)らが330人を診断した結果、最も多いのはアルツハイマー病による認知症で65%を占めた。

 また、東北大学病院の約2年前の調査では、MCIと診断された約80人のうち、75%の人が5〜6年でアルツハイマー型認知症になった。大学病院などの精密な検査でMCIと診断されれば、認知症に進む可能性は高いと考えられる。

 ただ、MCIと診断されても、認知症への進行を遅らせる治療は確立していない。アルツハイマー病の症状進行を抑える薬、アリセプト(一般名・塩酸ドネペジル)の効果が報告されているが、公的医療保険の適用は認められていない。

 一方、高血圧などに使われる薬の一部には、アルツハイマー病の進行を遅らせたり、一時的に症状を改善させたりする効果があることが最近わかってきた。東北大は降圧剤を使っていた高血圧患者約4千人を成分が脳の中まで入るタイプの降圧剤を使っていた人は、脳に入らないタイプを使っていた人に比べて発症率が4分の1だった。

 東京医科大の羽生春夫准教授(老年神経病学)は「血圧が高い患者ならは、効果的な降圧剤を使うことで、進行を遅らせることが期待できる」と話す。 

(平成19年5月20日 朝日新聞・生活)

 

私の感想

 進行を遅らせる降圧剤!という部分が気になる方が多いと思います。最近、米国で報道されたニュースをご紹介して私の感想に替えさせて頂きます。

 

中枢作用性ACE阻害薬で高齢者の精神機能低下の速度が遅くなる

提供:Medscape

中枢作用性ACEIはその他の降圧剤に比べ、6年以上にわたって認知機能低下の速度を遅らせることが循環器系健康試験のデータで示された。

 Laurie Barclay, MD

 Medscape Medical News

【2007年5月5日】

 中枢作用性のアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)は他の降圧剤に比べ、当初痴呆がなかった高齢者の6年以上にわたる認知機能低下の速度を遅らせるというCardiovascular Health Study(CHS)のデータが、米国 老年医学会の年次会議(ワシントン州シアトル)で発表された(5月5日)。

 「他の血圧内服治療を行った患者群の認知機能低下に比べて、血液脳関門を通過するACE阻害薬では認知機能低下の速度が50%遅くなった」と筆頭著者であり発表を行なったウェークフォレスト大学医学部 (ノースカロライナ州ウィンストン・セーレム)の老年内科学助教授のKaycee M. Sink, MD, MAS が、Medscapeの取材に応じて語った。

 カプトプリル (商品名Capoten)、fosinopril(商品名Monopril)、リシノプリル(商品名PrinivilやZestril)、ペリンドプリル(商品名Aceon)、ramipril(Altace)、トランドラプリル(商品名Mavik)といった中枢作用性ACEIは血液脳関門を通過する。中枢作用性ACEIの痴呆予防作用の機序は、脳内での高血圧の抑制だけでなく、酸化ストレスを減らし、炎症を少なくすることも関わっていることが、これまでの動物実験によって示されている。

 「血圧の治療は、血圧を目標値に収めるだけに留まらない場合がある」とSink博士は言う。「用いる薬剤によって、認知機能低下リスクの低減など血圧管理以外の面で影響が発生する可能性がある。高血圧は痴呆のリスク因子であるので、血圧降下薬の種類によってはその種のリスクを減らすことができる場合があるという認識が重要である。」

 CHSは循環器系リスクに関する長期研究であり、ノースカロライナ州フォーサイス郡、カリフォルニア州サクラメント郡、ペンシルヴェニア州ピッツバーグ、メリーランド州ワシントン郡の65歳以上の5,888名が登録している。調査開始時に高血圧治療を受けていて痴呆が無かったCHS被験者1142例のうち、心不全の68例は除外された。このコホートに対する追跡期間中央値は6年間であり、追跡から漏れた被験者20例は除外された。

 残った1,054例のうち、試験期間中にACEIを使用しなかった者が640例、使用した者が414例いた。使用者のうち、中枢作用性ACEIを使用した者が274例で、血液脳関門を通過しないACEIを使用した者が185例だった。評価コホートの平均年齢は74.8 ± 4.9歳であった。女性が64%、白人が76%を占めていた。

 測定した主要転帰は2種類あり、ひとつが全原因による痴呆の発生率で、これは核磁気共鳴画像を始めとする検査結果や臨床所見を委員会が検討して診断を決定した。もうひとつが認知機能の変化で、改変ミニメンタルステート検査(3MSE、スコアは0から100、高得点ほど認知機能が優れている)に基づいた。

 コックス比例ハザードモデルを用いて、ACEIへの累積曝露量を時間依存性予測因子とした痴呆発生リスクを算出した。算出ではACEIはすべてをひとつにまとめた場合と、中枢作用性ACEIと非中枢作用性ACEIとで比較した場合で行ない、曝露から転帰発生までの時間のずれを1年間とした。反復測定による共変動分析で3MSEスコアの変化を求め、集団特性(年齢、人種、性別、収入)、健康行動 (喫煙、アルコール、運動)、同時罹患疾患 (クレアチニン、低比重リポ蛋白質コレステロール、C反応性蛋白、糖尿病、冠動脈疾患)、試験開始時の3MSE、アポリポ蛋白E遺伝子型、付随的脳卒中、1年ごとの収縮期血圧、その他の降圧剤の使用状況について段階的に調整した。

 追跡期間において、痴呆発生が159症例あった。全ACEI使用の場合とその他の降圧剤使用の場合とを比べても、痴呆発生リスクの増大はなく (ハザード比[HR] 1.02、95%信頼区間[CI] 0.88 -1.18)、経時的な3MSEスコアの変化にも差がなかった (0.14ポイント/年、P=0.16)。これらの結果は考えられる交絡因子で調整しても変わらなかった。

 しかし、中枢作用性ACEIでは3MSEスコアの低下の程度が、その他の降圧剤を使用した場合に比べて50%低かった。共変動で調整後の3MSEの1年あたりの変化量は、それぞれ -0.32と-0.64であった(P=0.04)。

 「以上の結果は希望が持てるものだが、脳に到達するACE阻害薬と到達しないACE阻害薬を別の被験者グループに割り付けて、ランダム化対照試験で確認する必要がある」とSink博士は述べた。

 この試験の限界としては、指示による交絡の可能性を完全に除外することができなかった点、早い段階の曝露と遅い段階の曝露との区別がつけられない点、薬物使用の期間だけが考慮されており使用量については考慮されていない点が挙げられる。

 「(この報告は)よく管理された縦断試験によって新しい仮説を探索している」とカリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)の老年医学科長であるDavid B. Reuben, MDがMedscapeに対して語った。「限界は、この試験ひとつしかなく、しかも観察的な手法が用いられている点だ」。

 Reuben博士はUCLAのDavid Geffen医学部の老年医学・老年学のマルチキャンパスプログラムの責任者を務める名誉教授であるが、今回の試験には関与しておらず、Medscapeからの取材に客観的な意見を寄せている。

 「ACEIグループに含まれ、中枢神経系に作用するそれぞれの薬剤には、痴呆の発生に対して防御効果があると考えられる」とReuben博士は最後に述べた。「今回の知見が追認されれば、広く用いられている薬剤グループである降圧剤の選択の指針として有用になるだろう」。

 CHSデータの収集の費用は米国立衛生研究所(NIH)の心臓肺血液研究所(NHLBI)が負担した。Sink博士はHartford Geriatrics Health Outcomes Research Scholarsプログラム、Pepper Older Adults Independence Center(NIH助成)、ウェークフォレスト大学Kulynych認知記憶研究センターから支援を受けている。Sink博士とReuben博士の開示情報では、関連する金銭的利害関係はない。

 

AGS 2007 Annual Scientific Meeting: Abstract P36. Presented May 5, 2007.

Medscape Medical News 2007. (C) 2007 Medscape

 カプトプリル (商品名:Capoten)、fosinopril(商品名:Monopril)、リシノプリル(商品名:PrinivilやZestril)、ペリンドプリル(商品名:Aceon)、ramipril(Altace)、トランドラプリル(商品名:Mavik)と記載されていますが、日本での商品名は、カプトプリル(商品名:カプトリルなど)、リシノプリル(商品名:ロンゲス、ゼストリルなど)、ペリンドプリル(商品名:コバシルなど)、トランドラプリル(商品名:プレラン、オドリックなど)です。

 一方、非中枢作用性ACEI(非移行性)には、benazapril (商品名:チバセン錠)、enalapril (商品名:レニベース錠)、moexepril (Univasc)、quinapril (商品名:コナン錠)があります。

 ではARBではどうなのか? ARBであるcandesartan(商品名:ブロプレス)は最も脳血液関門通過するもののひとつと思われる(Curr Med Res Opin. 2003;19(5):449-51.)が、比較研究ではLITE・SCOPEでARBが脳卒中予防的であったと記載されるが、SCOPEでは、 Mean MMSE score の減衰に関してCandesartanは統計的に有意差は出ていない。

 

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