痴呆性老人の在宅医療

 ぼけをよく理解するための七大法則・一原則!


痴呆症状の理解が介護のポイント

 痴呆性老人の介護は、寝たきり老人の介護よりたいへんであるとよくいわれる。確かに、物忘れがひどくなって同じことを何度も繰り返したり、 家族の顔や自分の家が分からなくなるようなことが身内に起こったとき、どの家族も、そのことをどう理解し、どう対応してよいか分からず大混乱に陥り、これ以上介護を続けることができない状態まで追い詰められることは極めて多い。

 筆者(杉山孝博)は「呆け老人をかかえる家族の会神奈川県支部」(1981年4月発足)にかかわりをもって以来、数多くの痴呆性老人や家族と接してきた。家族が痴呆の特徴を知り、老人の気持ちを理解し、一つひとつの症状にこだわらないで、上手に対応できるようになると、痴呆症状も軽くなることを 経験してきた。

 そこで、誰にも理解し易いように、「ぽけをよく理解するための七大法則・一原則」をまとめてみた。

 

「ぼけをよく理解するための七大法則・一原則」

第一法則=記憶障害に関する法則

 記憶障害は痴呆の最も基本的な症状ですべてのの痴呆性老人にみられ、「記名力低下」「全体記憶の障害」「記憶の逆行性喪失」という、三つの特徴がある。

 「記銘力低下」とは、新しいことを覚えることが困難になる、つまりひどい物忘れが起こることをいう。同じことを何十回繰り返すのも、そのた びに忘れてしまうからである。

 大きな行為そのものの記憶を失ってしまうことを「全体記憶の障害」と呼ぶ。外出から帰ったばかりなのに、「今日は一日中家にいた」といい食事した後すぐ、「まだご飯を食べていない。飢え死にさせる気か」といって家族を困らせたりするの は、この特徴によくあてはまる例である。

  「記億の逆行性喪失」とは、蓄積されたこれまでの記憶が、現在から過去にさかのぽって失われていく現象をいう。「その人にとっての現在」は、一番最後に残った記憶の時点になる。この特徴を知っていると、老人のおかれている世界を介護者が把握することができ、どのように対応すればよいかもわかってくる

第二法則=症状の出現強度に関する法則

 痴呆症状が、いつも世話している最も身近な人に対してひどく出て、時々会う人には軽く出ることをいう。この特徴が理解できなかったために、「一生懸命に介護してあげているのに、感謝しないばかりか、ひどい反応をする」と介護者ひとりが嘆きつらい思いをし、他の家族は「大袈裟すぎる」といって介護者の苦労に感謝しないばかりかむしろ非難するといった「呆け間題」が、これまで数多くの家庭に発生した。

 子供が最も信頼している母親に甘えて困らせるように、痴呆性老人は、身近に世話してくれる介護者を絶対的に信頼しているから痴呆症状をひど く出すのだと考えるとよい。

第三法則=自己有利の法則

 自分にとって不利なことは認めないことをいう。しかし、言い訳の内容には明らかな誤りや矛盾が含まれるため、「都合のよいことばかりいう自分勝手な人」「嘘つきだ」など、痴呆性老人を低い人格の持ち主と考えて、介護意欲を低下させてしまう家族は少なくない。知的機能が低下して相手の気持ちが理解できないため、平気でいってしまうのだから、そのような言動こそ痴呆症状そのものと考えるべきであろう。

第四法則=まだらぼけの法則

 痴呆性老人は異常な言動ばかりするかというと、そうではなく、正常な部分と呆けの部分とが必ずまじりあって存在しているというもの。介護上の大きな混乱の原因の一つに、痴呆か本気かが見分けられなくて振り回されることがあるが、「常識的な人であれば行わないような言動をお年寄りがしている場合、 それは痴呆症状である」と割り切ることが大切である。

第五法則=感情残像の法則 

 いったり、聞いたり、行動したことはすぐ忘れるが(ひどい物忘れ)、感情の世界はしっかり残っていて、瞬間的に目に入った光が消えたあとでも残像として残るように、痴呆性老人がそのとき抱いた感情が相当時間続くことをいう。

第六法則=こだわりの法則

 あるひとつのことに集中すると、そこから抜け出せない。周囲が説明したり説得したり否定したりすればするほど、こだわり続けるという特徴をいう。

第七法則=ぼけ症状の了解可能性に関する法則

 第一〜第六法則にある、老年期のいろいろな知的機能の低下の特性を考えれば、痴呆症状のほとんどすべては、 そのお年寄りの立場に立ってみれ ば十分理解できるものである、という内容。

介護に関する原則

 「お年寄りが形成している世界を理解し大切にする。その世界と現実とのギャップを感じさせないようにする」。これが介護に関する原則である。老人の気持ちを理解して一旦受け入れることが上手な介護のコツであり、介護の負担を軽くすることにもなる。

 

 ところで、保健福祉サービスが充実されても、サービスを利用するとき、ためらい、気兼ね、遠慮といった「心理的ハードル」が高けれぱ、せっかくの制度も利用されないことになる。保健婦や医師、ソシャルワーカーが勧めることで「心理的ハードル」が低くなるものである。保健福祉サービスの量的・質的充実もさることながら、利用し易い環境作りにも配慮していかなければ本当の援助にならないのである。

 痴呆性老人は精神症状が多出する時期をへて、身体症状合併期、最後に終末期に至る。終末期に近づくにつれて医療的なケアが家族にとって深刻な間題になる。訪問診療や訪問看護による支えがあるかないかで在宅ケアの可否が決まるといってよい。訪問看護ステーションなどの在宅医療支援 システムの充実が早急に望まれる。

(川崎幸病院  副院長・地域保健部長  杉山孝博) 

(参考文献:平成10年新年号 CLINICIAN・467号 P40〜43)

 

私の感想

 介護の参考となるポイントがいくつか記載されており良い論文ですね。よく痴呆老人の行動の目的を理解することが介護にとって大切であるということが言われますが、まさにそれを理解するためには良い内容であると思います。

 徘徊する老人に、「何をしているのですか?」と理由を聞いたところ、「これから子供を迎えに行くのだ」とか「家に帰るところです」とかその人なりの目的があったのだとわかり、徘徊を理解できたという話はよく聞きますね。その願望を満足させるために、痴呆老人を治療・介護していく施設では“徘徊用の回廊”を作っている施設もあります。

 常識的には理解できないことであっても、痴呆老人にはそれなりの理由があるということはよく聞きます。大変なことではありますがそれを理解していくことが大切なポイントとなってきます。

 

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