アルツハイマー病の診断から死亡までの全経過は3〜20年
まれに30歳代で発症する例もある
1997年1月4日と5日の2日間、アルツハイマー病と関連疾患の診断と治療についての合同力ンファレンスが米国老年精神医学協会(AAGP)、アルツハイマー病協会(AA)、米国老年医学会(AGS)の共催で行われた。力ンファレンスは日ごろプライマリケアに当たっている医師を対象としており、次の点について議論がかわされた。@アルツハイマー病(AD)の発症頻度と社会的影響について。発症の危険因子は何か。AAD以外の痴呆性疾患にはどのようなものがあり、どのようにすれば鑑別診断できるのか。BADの安全で効果的な治療について。それぞれの治療法の適応と禁忌について。Cプライマリケアの場ではどのような治療と対応が可能か。D利用できる専門医療やケアのための社会資源にはどんなものがあるのか。E痴呆患者がケアサービスを受けやすくしていくために、政策企画担当者は何をすればよいのか。政策立案上の論点について。F将来有望な研究分野とテーマ。
参加者
精神科、神経科、老年学、プライマリケア、心理学、看護学、ソーシャルワーク、作業療法、疫学、公衆衛生政策の分野から、それぞれプレゼンター役の専門家が選ばれた。共同声明作業委員会のメンパーもこれらの分野の経験者から選ばれた。
基礎資料
プレゼンター役の専門家は、各国の学術文献からテーマに関係する資料をまとめた。
声明文の作成過程
委員会は各専門家の提言を聞き、提言の背景となる論文を通覧し、これらを踏まえて前記の論点にコメントを出した。議長が共同声明文の草稿を準備し、最終的な合意が得られるまですべてのパネリストが草稿の編集作業を続けた。
結論
ADは高齢者の認知機能低下の原因となる疾病の中で最も数多くみられるものであり、社会に多大な負担を強いている。ADはしばしば誤診されたり診断が遅れたりするのだが、認知障害の診察にあたって最初からADを頭に置いておきさえすれば、標準的な臨床診断基準によってADと診断をつけることが可能なことが多い。除外診断の末にADと診断するのではなく、最初から疑っておくことが大切である。プライマリケアの場で診断治療できる場合が多いが、所見が典型的でなかったり、障害が高度であったり、複雑な症状や合併症のある患者は、専門家に紹介するのが有益であろう。ADは進行性・非可逆性であるが、治療によって患者の生活の質を高めることができる。認知障害そのものに対しては薬物療法が、痴呆に合併する生活・行動上の問題に対しては非薬物的療法と薬物療法が、それぞれ有益である。介護者の半数近くが抑うつ状態にあるので、家族に対する精神療法的介入の必要があることも多い。痴呆患者に対するヘルスケアサービスの提供は断片的で不十分である。近年疾病の治療・管理モデルが変化してきていることによって、ヘルスケアシステム全体にさらに負荷がかかっている。患者の生活に欠かせない医療・社会資源が確実に利用できるようにするためには、新しい社会的なアプロ−チが必要である。今後、診断・治療をより効果的に行うことができるよう研究を進めていくベきである。
(以上が抄録です)
ADの発症頻度と発症危険因子、そしてADの社合的影響について(P93)
ADは高齢期、一般的には60歳以降に発症する場合が大多数であるが、まれに30歳代で発症する例もある。病気は徐々に、連続的に進行し、平均的な症例では症状の発現から8〜10年の余命が予想される。
ADの発症頻度は、調査対象の年齢構成や痴呆の定義、評価方法に左右されるため報告によって差があるが65歳以上の人口のおよそ6〜8%がADであり、60歳以降での発症頻度は年齢層が5歳上がるごとに2倍になるとされている。85歳以上での発症頻度は30%近くになる。
痴呆疾患の頻度(P94)
1位:アルツハイマー病・・・2/3またはそれ以上
2位:DLB(レビー小体に関連する痴呆)・・・剖検では25%を占める
3位:脳血管性痴呆・・・約15%
アルツハイマー病の進行(P94)
平均的な症例ではアルツハイマー病の診断から死亡までの全経過はおよそ10年であるが、3〜20年まで幅があり、進行の速さにもばらつきがある。
診断と検査(P95〜96)
教育水準が高い痴呆患者の一部は、Mini-Mental State Examination(MMSE)などの簡便なてすとでは正常範囲に相当する認知機能を示すことがある。逆にMMSEの点数は低いが認知機能の障害はない高齢者もおり、これは教育水準の低い場合などによくみられる。
非薬物療法的アプローチによる認知機能促進法:認知指向療法(P97〜98)
リアリティ・オリエンテーション(RO)、記憶トレーニングなど認知機能障害を改善するための技法が提案されている。これらは一時的に効果を上げることもあるだろうが、一方で患者と介護者双方にストレスをかけ、抑うつ状態に陥らせる引き金にもなり得よう。これらの技法による認知機能の増進はわずかであるため、弊害が利益を上回ると考えている専門家が多い。
治療についても目新しい記載はなく、期待されている治療法の1つについても「341人の中等度の認知障害を示す症例で、ビタミンE(α-toco‐pherol)と選択的モノアミンオキシダーゼB阻害剤selegiline(現在はパーキンソン病の治療薬として認可されている)の併用による効果をみたところ、プラセボ群に比べて認知機能低下の進行が遅くなったという報告がある。しかし認知機能が向上したという証拠は得られていない。」と結ばれておりました。