いつまで投薬を続けるか?!
長谷川和夫(聖マリアンナ医科大学副理事長)
篠原幸人(東海大学医学部内科教授)
宇野正威(国立精神・神経センター武蔵病院副院長)
笠原洋勇(東京慈恵会医科大学柏病院精神神経科教授)
(冒頭省略)
アルツハイマー型痴呆の治療(塩酸ドネペジルの登場でどのように変わるか)
(文頭省略)
実際に投与した方々の経験を聞くと,一部の症例で記憶力が改善したとか対人接触が著明によくなった,種々の問題行動が少なくなった,積極性が出てきたなど痴呆に随伴する症状が確かに改善されているようです.
宇野:治療効果のあった人たちについて,どういう症状がよくなったか調べてみると,見当識や計算力が少しよくなっています。これは注意力が向上したのではないでしょうか.記憶系はすでに相当に萎縮していますので塩酸ドネペジルは直接記憶系に効くのではなく,相対的に病変の軽い前頭葉の反応性あるいは活動性を少し上げるのではないかと考えられます.見当識は意識のレベルで非常に落ちやすいところですが,前頭葉の活動性が少し上がると注意と覚醒レベルが少し上がり,その結果見当識が改善することになると理解しています.
塩酸ドネペジルの適正使用のために
長谷川:いつまで投与するかが問題だと思いますがいかがでしょうか.
宇野:アルツハイマー型痴呆は健忘期,混乱期,痴呆期と分けられます.健忘期を1年でも2年でも長くして混乱期に進まないようにしてあげたい.したがって,その間はこの薬剤を使いたいと思います.問題は混乱期に入ったときで,混乱期においては介護者にあまり負担をかけずに痴呆が徐々に進む人もいますが,とかく不安が強くてあるいは種々の問題行動を示して介護者を悩ます方がいます.このような痴呆に伴う性格変化や感情面の障害が現れて,精神症状だけでなく行動障害も出てきたときにはやめざるを得ないと思います.
篠原:塩酸ドネペジルを投与し始め,ご家族やご本人には,これは病気を完全に治す薬ではなく,主として進行を遅らせ,時には明らかな改善が期待できるかもしれないと話し了解を得ますが、少なくともnon-responder(=薬に反応しない人)にはだらだら投与することなく中止すべきで,進行が止まった,あるいは少し改善したと思われる例にのみ続けるべきでしょう.ただしresponderで中止後に増悪したという報告があって,いつやめるかは難しい問題です.今後早急に患者さんを診ながら解決すべきだと思います.従来のデータを見ても,3〜6か月使用して効果がなければ,多くは期待できないのではないでしょうか.
笠原:治験の報告によれば,服薬すれば服薬しない群より10か月はよい水準を維持できるという結果であり,服薬開始後1年くらいが目安と思いますが,より早期であれば効果を認める期間が長引くことになり,早期発見が重要となってくると思います.
今回のテーマにもありますように、「いつまで内服するか」ということは未解決の大きな問題であります。“治療効果が認められる間は内服を続ける”ということが最も一般的な考え方であると思いますが、実際には、治療効果があって進行が停止しているのかどうか判断することは容易なことではありません。
今回の座談会の出席者には、日本を代表する痴呆症の第一人者が集まっておりますが、まだまだ「いつまで内服するか」に関しての意見の集約はみられていないようです。