報告書では特に,患者の発病初期から積極的にアルツハイマー病を診断し,早期に治療を始めることの大切さを強調している。これまでは,アルツハイマー病は“除外診断”されるのが一般的だったが,こうした従来の消極的な診療姿勢の軌道修正を狙ったものだ。
80歳以上の有病率は3割にも
米国のアルツハイマー病の有病率は,85歳以上で約3割,65歳以上でも6〜8%に上る。痴呆症状のある患者の3分の2がアルツハイマー病だという。これは,痴呆の主な原因として知られている脳血管性痴呆の15%に比べても,倍以上にあたる。
米国では,このようにアルツハイマー病の思者が非常に多いにもかかわらず,早期のアルツハイマー病の見落としが多いのが現状だ。これは,医師や家族が,初期の記憶障害の症状を,高齢者に典型的な「物忘れ」や「もうろく」で片付けてしまうことが多いためだ。
そこで,今回の報告書では,医師は高齢の患者の物忘れを軽視せず,アルツハイマー病に特徴的な症状がないかどうかをチェックすべきだとしている。具体的には,診察当日の年月日や曜日,住所を本人に尋ねる。また,家庭で浴室の場所に迷ったり,電話のかけ方がわからない,テレビのつけ方を忘れる一一などの経験がないかどうかを家族に聞くといったことだ。このような記憶や認知障害がいつの間にか現れ,徐々に,確実に進行していくのがアルツハイマー病の典型的な症状だからだ。
新薬の登場で薬物治療に期待
アルツハイマー病の治療については,症状を@認知障害Aうつ状態B不眠や食事の拒否といった行動異常や妄想などの精神異常一一の三つに分けて検討している。
軽症の認知障害については,米国で発売された,コリン作動系の活性化作用のある「タクリン」(商品名:Cognex)と「ドネパジル」(同Aricept)の投与に効果が認められている。特に,1日1回の服用で効果がある点と,定期的な肝機能チェックを必要としないことから,ドネパジルを第l選択にする専門医が多い。
アルツハイマー病に合併することが多いうつ状態の治療は,抗うつ薬である「選択的セロトニン取り込み阻害薬」(SSRI)の投与と心理療法の併用を薦めている。行動異常や精神異常については,副作用の多い抗精神病薬の投与に頼らず心理療法に重点をおくべきだとし,薬を過剰に使う現状に否定的だ。
プライマリケア医が,患者管理
プライマリケア医の主な役割は,思者の行動障害を軽減し,自立した生活を支援する事だ。そのために,次の五つのポイントを押さえておきたいとしている。@3〜6カ月ごとの定期検診。この時,投与している薬の有用性も見直す。A家族や介護者と密に連携し,思者情報を集める。思者の症状が悪化する前に,今後の治療方針について話し合う。B定期的な運動プログラムなどを作って,思者の行動や精神状態の安定を図る。C家族と協力して,患者の精神状態に好ましい,穏やかな居住環境を作る。D家族に,患者の散歩や車の運転についての注意点を促す。
日本でも,98年度から,東京都で痴呆性高齢者の早期発見・早期治療を目的としたモデル事業が計画されている(東京都は98年度から,痴呆性高齢者の早期発見と早期治療を目的とした,“痴呆性高齢者総合ケア連携システム”のモデル事業を始める。開業医を通じた早期発見と,老人専門病院や在宅介護支援センターなどと連携した総合的なケアを目指す。98年度から2000年までで,都内4カ所で実施する。 計画では,開業医が早期発見の中心的な役割を果たす。都が,高齢者のかかりつけ医向けに,“痴呆の簡易診断マニュアル”を作成し,日常診療の中で可能な,簡単なスクリー二ング法を示していく。また,年2回の研修プログラムを行い,痴呆の専門知識の修得を支援する計画だ)。日米共に,開業医の役割に, 大きな期待が寄せられている。
(當麻 あづさ)