老年期痴呆:約60%はアルツハイマー病、約30%が脳血管性痴呆!
PET:アルツハイマー病では早くから前頭葉のグルコース代謝が落ち、場所や時の見当識障害の目立つ例では頭頂部位の代謝の低下が著しい!
1999年には,わが国でもコリンエステラーゼ阻害薬が市場に出る!
患者への説明のポイント:脳の異常な老化が痴呆のもとなので,年を追って進行していく。老年痴呆と初老期痴呆の多くはこの病気。
痴呆症を示す疾患は多数あるが,その中の代表的疾患がアルツハイマー病である.生理的な加齢現象による脳の萎縮状態を越えて病的に脳萎縮が進行した結果,痴呆症状を示すようになったものである.この病気はもともと精神医学者であるAlzheimerが1907年にみつけた52歳の女性の進行性痴呆症例にちなんで命名された.彼がこの女性の脳切片からみつけたのは,著明な神経細胞の脱落と特殊な染色法で染め出された老人斑,神経原線維変化と呼ばれる異常な構築物であった.それ以来,この特徴的な病理変化をもった初老期の痴呆症をアルツハイマー病と呼ぶようになった.しかし,50歳代,60歳代の初老期ばかりでなく高齢者を中心に老人一般にみられる痴呆症の中にもアルツハイマー病と同様の脳の病理変化を示すものが多数みつかり,最近ではこうした老人一般にみられるものも含めてアルツハイマー病,またはアルツハイマー型痴呆と呼ぶようになっている.老年人口が増えるにつれてさらに増加が見込まれている疾患である.
なぜ,老人斑や神経原線維変化が出来上るかはわかっていない.しかし,老人斑のコアを形作っているアミロイドタンパクの主成分であるベータタンパク前駆物質のアミノ酸の配列が判明している.これから逆にDNAの塩基配列を割り出して,遺伝子の座を突き止め,アルツハイマー病の成立ちを解明しようとする研究がなされている.
老年期痴呆との異同:実際の診察場面でよく聞かれるのが,老年期痴呆とアルツハイマー病の違いである.老年期痴呆は老年者全般に生じる痴呆症を総称したもので,疾患名を意味しない.最近の疫学調査によると老年者で痴呆症のあるケース,すなわち老年期痴呆と呼べる状態の約60%はアルツハイマー病とみてよい,残り約30%が脳血管障害に基づく痴呆と考えられる.アルツハイマー病は特殊な疾患ではなく老年者によくみられる痴呆疾患である.
診断
4.MRI
MRIによってX線CTでは得にくい小さな血管障害や梗塞の拡がりを,さまざまな断面で骨の影響なしにみつけることができるほか,海馬付近の萎縮を前額断面でみることができ,アルツハイマー病の脳萎縮を早く発見できる利点がある.
5.ポジトロンCT(PET),シングルフォトンエミッションCT(SPECT)
X線CTやMRIでは得られない脳局所のグルコースの代謝や酸素消費率,脳血流を測定できる。同時に生化学的変化を画像としても観察できる.アルツハイマー病では早くから前頭葉のグルコース代謝が落ち,場所や時の見当識障害の目立つ例では頭頂部位の代謝の低下が著しいという.アルツハイマー病の初期変化を捉えることができる有望な診断手段だが,半減期の短い放射性物質をその場で作って人体に投与しなければならず,施設や費用の面で一般には普及しにくい.今のところ研究用に限られている.
予後・治療
患者への説明のポイント:慢性、進行性であって、回復が見込めない。知的な機能が次第に落ちていくことは治療できないが、痴呆に伴う問題行動や精神症状は緩和できる治療法、処遇がある.
全経過は平均して7〜8年である.どの年代で発症してもほぼ同様の経過をたどることが多い.65歳以下の若年発症では進行による能力の落差が大きく進行は著しく早いようにみえる.アルツハイマー病には経過の違いや,神経,精神症状の出方に違いがあることから臨床的には単一ではなく亜型があるとの説もある.死因の多くは肺炎などの感染症による。
1. 治療
アルツハイマー病では大脳基底部神経細胞の変性の結果,主としてアセチルコリン系の神経伝達物質が不足して認知障害を引き起こしているとの仮説から,脳内のアセチルコリンを増加させようとする試みもある.1999年には,わが国でもコリンエステラーゼ阻害薬が市場に出る.しかし,これとても6カ月のあいだに記憶と見当識にごくわずかの改善がみられるのみで,アルツハイマー病そのものの進行は抑えられない.
2. アルツハイマー病の告知
アルツハイマー病であることがわかった時点で,病名を告知しなければならないときがある.患者本人は,病初期から自分が痴呆症であるとの病識を欠いている場合が多い.受診さえも拒否的なこともある.こうした患者に病名を告知して,治療や予後を説明することは慎重でなければならない.むしろ,介護家族に病名を告知し,治療法と予後について説明するのが現実的であろう.治療は対症療法と合併症治療に限られること,慢性進行性で,最終的には寝たきりに近い状態に至ることは見通しておかねばならない.そのうえで,残された機能を維持し,障害を援助する方策をともに考えていくといったことが必要である.医療とともに家族支援も含めた福祉との連携まで視野に入れておくことが望ましい。
(浴風会病院 精神科・須貝佑一 神経内科・吉田亮一)
内科6月号が、インフォームドコンセントの実際という素晴らしい特集を組みました。
各種疾患で説明すべきこと、検査で説明すべきことなどがまとめられております。アルツハイマー病に関する部分だけ紹介いたしました。
6月15日の朝日新聞の著書広告欄には、メルクマニュアル(家庭版)が発売されたという記事も出ておりました。
いい加減な説明では患者さんは決して納得しない時代はもうすぐそこまで迫ってきているようです。
それにしても本論文では、「1999年には,わが国でもコリンエステラーゼ阻害薬が市場に出る」すなわちアリセプトが承認されると言い切っておりますが、そんなことが明確になったのでしょうか。