“生きがい”が認知症を予防する!
米国住民データ「Rush Memory and Agingプロジェクト」の解析結果
東北大学病院精神科 松本和紀講師
研究の背景(アルツハイマー病における心理社会的な危険因子が注目)
「生きがいを持っていれば,きっと,ぼけの予防になる」と,直感的に感じている人は多いであろう。認知症患者の増大は公衆衛生上の大きな問題であり(「認知症進行期の終末像が明らかに」参照:MT
Pro 2009年10月27日掲載),予防に役立つストラテジーの開発が必要とされている。
最近の研究からは,心理学的因子や社会的ネットワークなどのさまざまな要因がアルツハイマー病(AD)のリスクに関与する可能性が示唆されてきている(Neurology
2009;72:253−259,Lancet 2000;355:1315−1319,「慢性ストレスによって高齢者の記憶障害は進行するのか?」参照:MT
Pro 2009年12月9日掲載)。果たして生きがいは,認知症の発症や認知機能の低下を防ぐのだろうか。
今回紹介する研究(Arch Gen Psychiatry 2010;67:304−310)は,米国Rush
Memory and Agingプロジェクトにおける高齢者の疫学的な縦断的追跡調査の結果である。
研究のポイント(生きがい尺度得点の高い人はADのリスクが低下)
対象は,米国シカゴ周辺に住む高齢者で,研究に同意が得られ,ベースラインで認知症がなく,最低1回の追跡調査が可能であった951人であった。女性が74.9%で,ベースラインでの平均年齢は80.4±7.4歳,Mini-Mental
State Examination(MMSE)の平均得点は27.9±2.2であり,26.6%が軽度認知障害(Mild
Cognitive Impairment;MCI)と判断された。対象者は,毎年定期的に追跡調査された。生きがい(purpose
in life)尺度は,RyffのPsychological Well-Being尺度のなかの10項目によって作成された。
最大7年間(平均4.0年)の追跡期間で,151人(16.3%)がADを発症した。ADを発症した人は,発症しなかった人と比べ高齢で(84.7歳
vs.79.5歳,P<0.001),生きがい尺度得点が低かった(3.7点vs.3.4点,P<0.001)。
年齢,性,教育歴を補正したモデルによる解析では,生きがい尺度得点が高い人は,ADのリスクが有意に減少した〔ハザード比(HR)0.48,95%信頼区間(CI)0.33〜0.69,P<0.001〕。性格傾向,社会ネットワーク,慢性身体疾患など他の因子を共変量としたモデルを用いた場合でも、生きがい尺度得点とAD発症との関係は続計学的に有意であった(P=0.02)。
生きがい尺度の高得点者(4.2点,90パーセンタイル)は,低得点者(3.0点,10パーセンタイル)よりもADを発症せずにすむ可能性がおよそ2.4倍高かった(図)。

ベースラインでMCIのなかった698人による解析では,追跡期間中285人(40.8%)がMCIに進展した。生きがい尺度得点が高い人は,MCIについてもリスクが低く(HR
O.71,95%CI O.53〜0.95,P=0.02),また,認知機能の低下がより緩徐であることが示された。
私の考察(高齢者の生きがいを高めることは、医療・公衆衛生的にも重要性を持つ)
今回の結果により,高い生きがいを持っている高齢者,すなわち人生経験から意味を見出し,志向性や目標志向性がより高い高齢者は,ADのリスクが低下し,認知機能の低下速度がより緩徐になることが示された。
この結果は,今後の高齢者の医療・福祉を含めた公衆衛生を考えるうえでとても示唆に富む。生きがいは,心理・社会的な因子によって変化する可能性があり,これを標的にしたかかわりや介入を行うことができれば,高齢者の幸福感や満足感を高め,認知症や認知機能低下に対して予防的な効果が期待できるからである。
生きがいはきわめて個人的なものではあるが,生きがいを高めるために行動技法的な介入を加えることで,その人にとって意味のある活動を増やしたり,目標に向けた行動を増やすことができるかもしれない。
身体的な不自由さが増した場合でも,心理的な働きかけ(「高齢者の精神障害の予防」参照:MT
Pro 2009年3月17日掲載)が効果を発揮する可能性もある。
高齢者の生きがいがADの発症という医療的な問題と深く結び付いているという今回の結果は,医療や公衆衛生の領域においても,ADの予防という視点から,高齢者の生きがいを高めるためのストラテジーを開発する必要性があることを示唆している。
(MT Pro
2010年3月24日掲載記事を一部改変して転載)
私の感想
久しぶりに、素晴らしい論文に出会いました。
良い研究ですね。
私も、この研究成果を何らかの形で、日常診療に採り入れたいと思います。
「生き甲斐を持って認知症予防!」良いフレーズですね。